人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

知らなかった二人の関係

今週のお題「忘れたいこと」

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突然知らされて、心はやられた感で満載に

 恋愛は自分の思い通りにいかないものだし、人の心は摩訶不思議でとらえようがありません。私が初めて好きになった人は中学の時のクラスメートでした。背が高くて、運動神経がよくて、すごくカッコいい男の子でした。いつもバスケットシューズを履いた長い脚で、自転車を漕いでいたのを覚えています。彼の何がそんなにいいのかというと、ズバリ顔でした。その辺の女の子よりも美しい、まるで『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンのような顔にうっとりしていたのです。最初は友だちが騒ぎ始めて、「そんなのバカみたい」だなんて思っていたのに、いつしか自分も舞い上がっていました。同じクラスに居る彼に授業中にもかかわらず、熱い視線を送っていたのは私だけではありませんでした。

 バレンタインデーに手作りのマフラーを贈ろうとしたら、友だちに止められました。積極的に出ない方がいい、このままでいたほうがいいとアドバイスされて引き下がったのですが、今から思うとそれは賢明な選択でした。彼のどこか好きかと言ったら、その顔だなんて、そんな軽率な話はないのかもしれません。彼がどんな人かは全く知らないのに。彼の幼馴染の同級生の女の子に言わせると、「あの子は普通の子なのに、皆がどうしてそんなに大騒ぎするのか理解できない」そうで、物事の真理をついているのです。私の彼への一方通行な思いは卒業するまで続き、たいして痛みを伴うことなく彼とお別れとなりました。それから何年かたって、同窓会で偶然に彼に声をかけられました。もうその時は彼への熱い思いはとっくに消えていたので、突然の再会になんの感慨もありませんでした。彼を見てみたら、どこにでもいる”ただの人”で、少し立ち話をして「それじゃあ、また」で友達のところに戻りました。

 これって、昔の憧れの人に幻滅したと言えるのでしょうか。それとも、昔の美少年も大人になったら、悲しいことに”ただの人”になってしまうのでしょうか。いずれにせよ、それ以来、私は相手の容姿にはこだわらなくなり、話しやすいとか一緒に居て楽しいを重要視するようになりました。まだ若い頃、職場にそんないい感じの男性が一人いました。仲の良い同僚の女性と私の3人はチームを組んで、和気あいあいと仕事をこなしていました。私たちのチームの上司は私たちより少し年上で、物腰は柔らかいのですが、時には歯に衣着せぬことも言う人でした。ただ、仕事のことに関しては何でも話せる自由な雰囲気があったので私たちは彼女のことをとてもいい上司だと思っていました。

 彼女と雑談している時に、気になったのはどうやら自分の容姿を自慢に思っていることでした。沖縄出身で浅黒い肌をしていて、日本人にしては大きく輝く瞳をもつエキゾチックな顔。他人から話題にされなくても、物凄くモテたというようなことを平気で言う人でした。つまり仕事はもちろん女性としても自信満々だったわけです。その後、仲間の彼も転職して職場を去り、上司の女性も転勤することになりました。

 ある日同僚から思いもかけない事実を聞かされて仰天しました。何とあの上司と憎からず思っていた彼が結婚したというのです。俄かにはとても信じられませんでしたが、上司本人から直接電話がかかってきたのだと同僚が言うので間違いありません。電話の内容は、実は二人は会社で一緒に仕事をしていた時からすでに付き合って、それで結婚したという暴露話でした。「私たちは騙されていたんだよ。バカみたいだね」。そう悔しそうに言う彼女は彼のことが好きだったらしいのです。そのことは私も薄々は気づいていました。なぜなら私も彼のことが好きだったからです。でもその気持ちは恋愛感情とも友情とも見分けがつかないような、ふんわりしたものでした。

 彼女の悔しがる気持ちはわかるような気がします。二人を見ていたら、もしかしたら彼も彼女のことを好きなのではないかと錯覚してしまうこともあったからです。要するに、彼は今でいう草食系男子で、相手に「この人、私のこと好きなのかしら」と思わせてしまうような態度を自然に取ってしまう人なのです。彼女は当然、彼に直接電話して本当のことを聞き出しました。彼の答えは「当時から上司の女性が好きだった」でした。彼女としては、「それならはっきりと言ってくれればいいのに」と怒りが収まらないのです。「だから早く忘れたい。この胸の痛みを癒してくれるのは時間だけだとわかっているけど」。彼女の嘆きを聞きながら、慰めの言葉が見つかりません。それでも「一緒に忘れようね、嫌な記憶は消してしまうに限るよ」と言うのが精一杯でした。

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