人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

エキストラ

目立ってはいけない、でも本音は目立ちたい?

 ある日の新聞のテレビ欄に、『ちょっと気になるけど、どうなってるの?』的な質問のコーナーがあって、それはCMに関することだった。確か女優の仲間由紀恵さんが通勤電車の車内で大勢の人に囲まれながら風邪薬の宣伝をしている。その光景があまりにもリアルなので、これはもしかして本当の車内で撮ったのですか、との視聴者の指摘だった。だが本当のところは車内の乗客はすべてエキストラの人たちだった、という落ちが付いた。あのような車内のリアルな雰囲気を出せたのはエキストラの人たちの演技力があってこそなのだと言いたいのだ。これには正直驚いた、そもそもエキストラの人たちに”演技力”などというものが必要なのだろうか。私の中ではエキストラの人たちはその他大勢の人たちで、助監督などの上の人たちに言われるままに動けばいいという常識が出来上がっていた。

 折も折、TBSラジオの宮藤官九郎さんの番組でエキストラのAさんとBさんの二人がゲストに来てくれた。二人共40代の男性で、エキストラ歴は6,7年の人たちだ。そもそも二人はどうして、エキストラになろうと思ったのだろうか。Aさんは若い頃から俳優という職業に興味があって、なろうとしたが叶わなかった。でもその夢が忘れられなかったようで、雑誌やネットで「エキストラ募集」という広告を見たら、夢をもう一度とばかりに応募してしまったと言う。この人は以前ゴミ処理業者の愚痴の時でも出演していたと知って、ああそう言えばそんなことが・・・と気づかされた。

 もうひとりのBさんの理由が意外で実に面白い。そんなふうに考える人も居るのかと目から鱗だ。Bさんは映画やドラマのDVDを買い集めるのが趣味だった。それで、どうせ買うなら自分が少しでも写っている作品を買った方が、記念にもなるし、やりがい?もあると考えたのである。もちろんエキストラなので、ほんの少し、いや一瞬かもしれないが、自分が映っている、いや作品に参加していると思うだけで心がときめくのである。Bさんは普段は普通の会社員で、エキストラはアルバイトで自分で好きでやっていることだ。なので当然自分の時間があるとき、あるいは土日にやっているのかと思ったら、この予想は大間違いだった。

 驚くべきことに、Bさんはなんとエキストラの仕事の時はわざわざ有給を取っているのだった。なぜそうなるかと言うと、エキストラの仕事の連絡が入るのはいつも前日だから予定がたてられないし、時間の余裕はないので突発的に有給届を出さなければならないのだ。どう考えてみても、そうやっていつもいつも休みを貰うのはなんだか会社に居づらくなってしまうのではないか。それは想像するとけっこう大変なことだと思うのだが、Bさんはそうやって仕事とエキストラのアルバイトを両立させているのだ。ある意味凄いことだ。

 それからエキストラと一口に言っても、その仕事の内容を聞いてみると、そんなことまでするのかと仰天する。例えば、現場に行ったら、突然呼びだされて、短いセリフが書いてある紙を渡されて、覚えるように言われたり、あるいは、結婚式の司会者の役をやらされたこともあるそうだ。私生活でもやったことがないことをいきなり要求されて、一瞬自分にはとてもできないと思った。だが、それでも面白そうだからやってみたら、自分で言うのも何だが卒なくできてしまった。そうなると、エキストラは原則目立ってはいけない仕事なのだが、自然と目立ちたくなってしまうそうだ。だいたいがエキストラにどう考えても目立つ司会者の役を振るのはどういうことなのだろうか。

 たまに目立とうと意図して動くと、「その動きは目立つからダメ」と言われてしまうが、本当のところは目立ちたい。要するに、静かに”自分はここに居るよ”とアピールしたいのだ。AさんもBさんも共に、出演しているのは聞いたことのあるドラマや映画ばかりだ。普段目にすることが多いテレビのCMにも出ているそうで、となるとこれからは主役の人だけでなく、その後ろに居る人たちにも注目したくなる。エキストラというのは、目立ってはいけないけれど、本当のところは目立ちたい人たちなのだとわかったから。

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