人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

友の告白に絶句

今週のお題「忘れたいこと」

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あの夢はどうしたの?と聞かなければよかったのに

 何かの雑誌で誰かが「忘れることはいつも悪者だった。でも忘れることで救われることもあるのだから皆が思っているよりはそんなに悪い事でもない」と書いていました。そうなんです、人間は辛いことや嫌なことあったとしても、いつまでも覚えていないで、そのうちに忘れてしまうから何とか生きていられるのです。自分でも「こんなことは早く忘れてしまおう」と口に出して自分に言い聞かせます。でもどうしたことか、すでに忘れたはずなのに、ある時ふと頭の中にぽっかり浮かんでくるときがあります。そんなとき、当時のような強い思いはもう無いにしても、「忘れたいのに!」と胸の奥がチクリとして少し傷むのです。

 私の場合は、遥か昔でもう15年以上も前の出来事で、すでに記憶の彼方にあったはずなのに、今でも何かの拍子に思い出すのです。例えば、仕事の厳しさに直面したり、世の中にはどうにもならないことがあるのだと実感したりするときにです。「努力はどんなことでも可能にする」などという前向きになれる言葉が虚しく思われる出来事でした。そんな絶望と虚しさで絶句してしまった相手とは高校の時の友人で、今では疎遠になっていて、遠く離れているし、もう会うこともない人なのです。

 その友人とは高校に入学した時に初めて出会いました。クラスに誰も知り合いがいなくて、「なんか居場所が無くて困ったなあ」と思っていたら彼女から声をかけられたんです。私が「皆がちょっと怖い人に見えた」と言ったら、「やっぱり?私もそうなの」と共感してくれました。彼女も遠い所から見ていたら、十分に怖い人?だったのに実際に話してみたら全然イメージとは違いました。話しやすいし、明るくて面白い子だったので、それ以来いつも一緒に行動するようになりました。私たちの高校は田んぼの真ん中にあって、ほとんどの生徒は自転車通学でした。私も家から学校まで30分の道のりを自転車で通っていて、彼女の家はその途中にあったので毎日一緒に帰っていました。

 彼女は服飾関係の仕事に興味があるらしく、将来の夢はパターンナーになることでした。パターンナーというの洋服の型紙を作る人のことで、この作業が無ければ、服というものは存在しません。彼女に言わせると、だからこそやりがいがあるし、面白そうだからぜひやってみたいのです。当時は本人も希望に燃えていたし、また家にも経済的に余裕があったのでそれはたやすく叶う夢だと誰もが思っていました。将来に対して漠然とした思いしかなかった私は、正直言って羨ましかったのです。

 高校を卒業すると彼女は希望通り服飾関係の短大に進みました。そしてさらにもう1年勉強するために専科に入りました。卒業すれば彼女の夢だったパターンナーになれるはずでした。その頃私は自分の事でなんやかんやで忙しくしていて、彼女とあまり連絡を取れなくなっていました。ある日、偶然に共通の友だちから彼女の近況を聞く機会がありました。その子が言うには、なんと彼女は家の近所の繊維会社に就職したというのです。「そんなはずない。だって彼女の夢はパターンナーなのだから」と半信半疑でした。一体全体、どうして、なぜ、そんなことに?と疑問が次から次へと頭の中を駆け巡りました。こうなったらもう本人に直接聞くしかありません。自分のモヤモヤを解消するためにです。この時の私はただ自分の疑問の答えを知りたかっただけで、相手の気持ちなどお構いなしなのでした。愚かにも、私は彼女がもうそのことは過去のことなのだから、できれば触れられたくないと思っているのだと察することなど考えも及びませんでした。

 物事に対して考えが足りんずな私は唐突に「なんでパターンナーにならなかったの?」と聞きました。そしたら彼女は淡々とこれまでのことを話し始めました。最初に「私にはパターンナーとしての才能がないの」と寂しそうにポツリと言ったのです。その理由は短大の先生から次のような厳しい言葉を浴びせられたからでした。「あなたは就職しない方がいい。なぜならパターンナーとしてやっていけないから」。なんて残酷な言葉なのでしょう。まるで彼女にとっては死刑宣告みたいです。

 これまで指導してくれた先生からまるで崖から突き落とされるに等しいことを言われていたのでした。私と話した時はだいぶ落ち着いていたようですが、きっと自分の不甲斐なさと情けない気持ちでいっぱいになっていたはずです。忘れようとしていた傷を私がまた思い出させてしまったようで、今思うとなんだか申し訳ない気持ちです。自分の好奇心を満たしたところで、いったい私に何ができるのか。何もできはしないのでした。私なんかに言ったところで仕方ないのに、それでも彼女はちゃんと話してくれました。何か彼女のために役に立ちたいのに、それどころか話を聞いても何も言えず黙っているしかありませんでした。頑張ってその状況にふさわしい慰めの言葉を探してみたのですが、見つからなかったからです。

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