人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

連休中スーパーで

もはや絶滅した感のある、試食販売に遭遇

 この間の3連休中都心に遊びに行った。散歩がてら、40分の道のりを歩き、あちこち道草をしながらたどり着いた。帰りに途中にあるスーパーに立ち寄って、懐かしい光景に遭遇した。その店は売り場が1階と2階に分かれていて、野菜や肉などの生鮮食料品は2階のフロアにあった。もちろんエスカレータもあるのだが、敢えて階段を使って上った。すぐにパンのコーナーが見えて、まっすぐ進むと総菜売り場がある。空腹を感じた私は何かよさそうなものはないかと物色を始めた。すると、なんだが美味しそうな匂いが漂ってくるではないか。まさか、これは肉の焼ける匂い!?と察した私は真相を確かめようと、辺りを見回した。

 たしか、総菜売り場の隣には精肉、それも当方にはあまり縁がない高級牛肉の売り場があった。だが、その日はなんだか様子が違っていた。ふと見ると、白い帽子を被り、清潔そうなエプロンを付けた女性が肉を焼いていた。「今、ロースを焼いていますので、少しお待ちくださいね」とその場にいるお客に断りながら、「先ほど召し上がった赤身の肉は、ショーケースの右端にあるお肉です」と牛肉のアピールをすることも忘れない。そう、今どき珍しい試食販売だった。試食販売の復活か!すぐにそう思った。テレビのニュースでは来月から全国で旅行支援のキャンペーンが始まるといっていたし、そうなるとコロナ禍も終わりつつあると言うことか。3年近くにも及んだコロナ禍は終わり、やっと新しい時代が来るのか、とそんなことをふと思った。

 牛肉の匂いに誘われて、思わずそちらに行きたくなったが、つばを飲み込んで遠目から見守った。懐かしい、久しぶりに見た光景が新鮮だった。昨今はコロナ禍で試食販売がその姿を消して久しい、もはや絶滅かと思われたが、また出会えるなんて嬉しい限りだ。試食販売で肉を焼いていた女性のような人のことをマネキンというのだと昔,友だちから教えて貰ったことがある。マネキンとはデパートやスーパーなどへ派遣されて、主に食べ物などを販売する人なのだと言う。彼女もアルバイトでやっていたことがあって、いろいろな場所に行けて結構楽しいよと話してくれた。

 マネキンの話題から、今まで忘れていた懐かしい友のことを思い出した。彼女はショーコさん、名字は何だっけ、聞いたけど忘れてしまったから、彼女の名前しか覚えていない。すごく不思議な人で、彼女の言うことは刺激に満ちていて仰天することばかりだった。彼女と出会ったのはアルバイト先の大きな喫茶店で、最初はその外見に圧倒された。フランス人形と見間違えるくらいの可憐な外見に、緊張してしまった私はあまり関わらないようにしようと思った。だが、その予想をあっけらかんと裏切って、本当の彼女は庶民的でその行動や物言いはがさつとも言えた。

 「ねえ、あの店長って、ムカつかない?嫌な奴だよねえ」

それが、外見に似つかわしくないショーコさんの第一声だった。私は好奇心を抑えきれずに尋ねた。

 「あなたってハーフなの?」

 「違うよ、両親は二人共日本人だから。でも私の故郷は佐渡だから、もしかしたら、ロシア人の血が混じってても可笑しくないかもね」

ショーコさんはそう言うとけらけらと笑った。

 よく見ると、大きな瞳の色はグレーでどう見ても日本人には見えない。それに髪の毛を金髪に染めているからどう見ても外国人だ。本人に言わせると、よく「ロシア人ですか?」って言われるそうだ。今思うと、ロシア人にステレオタイプなんてない。ロシア人も多種多様な民族で、髪の毛の色も金髪、栗色、赤毛、真っ黒と人によって様々だ。顔立ちから日本人と見間違う人だっている。当時の彼女はアルバイトをしながら、女優の道を目指していた。彼女が通っていた教会でクリスマスに劇をやったことがあった。その時上演した『嵐が丘』の脚本を書き、ヒロインのキャシーを演じたのはショーコさんだった。絶交したわけでもないのに、いつの間にか自然消滅してしまったが、彼女は今どうしているだろうか。

mikonacolon