人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

店内改装でベーカリーが消滅

それでも、ちゃんと生き残っていた

 先日私は旅行に着ていくズボンをスーパーに買いに行った。そのスーパーは家から歩いて30分ほどの距離にあって、普段は滅多に行かない場所だった。要するに、どうしても、着るものに困ったときにしか、思い出さないし、また行こうと思わない店だった。昨今は昔からあった個人商店というものが絶滅し、もはやいつでも気軽に歩いて行ける場所には衣類を買えるところはなかった。

 実を言うと、歩いて15分ほどの駅前にはユニクロしまむらもちゃんとあるのだが、悲しいことに私のニーズには答えてくれない。それでも、一応は店の中を一回りし、何とかここで間に合わないものだろうかとあれこれ試行錯誤した。だが、やはり、最近の流行りなのだろうか、ウエストがゴムでもなく、時間が経つにつれて、ずり落ちてしまいそうなルーズなパンツは、とても買う気にはならなかった。なんとか近場で間に合わせて、時短をし、得をしようとした私の目論見は完全に崩れた。

 こんなことなら、最初から、歩いて30分のスーパーに直行したほうがよっぽど時間の節約になっただろうに。面倒臭がり屋の私はそれができなかった。仕方がないので、家に戻って少し休んでから、ズボンを買いにスーパーを目指して歩く。私だけかもしれないが、衣料品を選ぶときは、絶対家に帰って失敗したくないので、慎重になる。普段は適当でものぐさな性格の私が、この時だけは神経質になり、念には念を入れて、目の前にある衣類をチェックする。まあこうなったのも、昔の数知れない失敗のおかげで、最近ではほとんど失敗しなくなった。

 さて、このスーパーには一年に一度行くか行かないだが、どこかで聞いた噂では、店内改装をしたらしい。それで、入口を入ってすぐの左手にあったベーカリーが無くなっていて、あれ?と思ったら、すぐに「地下一階に移動しました」との案内表示を発見した。このスーパーに行くと、必ずここのパン屋のサンドイッチとカフェラテを買って、休憩スペースでお茶をするのが習慣になっていた。ここ4年ほどはコロナ禍で閉鎖されていたが、先日行って見たら、復活していて、以前より落ち着いたスペースに生まれ変わっていた。早速、エスカレーターで地下に行ってパン屋を捜したが、見つからない。以前から地下一階は食料品のフロアーになっていたので、その片隅のどこかにあるのかと思ったら、そうではなかった。スーパーの中を一回りして、パンコーナーに、あのベーカリーのパンが置かれてあるのを見つけて、ようやく気がついた。もはや、パン屋は存在しないのだと。

 パンコーナーのほんの一部のスペースが以前のベーカリー”小麦の季節”の居場所だった。こんなことなら、はっきりとパン屋は無くなりましたと案内表示に書いてくれた方がどれだけよかったことか。そんなことになっているとは露知らず、必死になって捜してしまうところだった。要するに、ベーカリーはこのスーパーにおける不採算部門だったのだろう。ふと見ると、何種類かある籠の中に一つだけ残っているパンがあった。それは総菜パンで、「レンコン、ゴボウサラダパン」とタグに書いてあった。一つだけしか残っていないということは人気があると言うことで、どう見ても買ってハズレはないと判断した。

 いくら何でもパン一個だけじゃあ、かっこ着かないので何かないかと探してみるが見つからない。パンを片手に持って、うろうろした後、また売り場に戻ると、私が取って空になった籠は消えていて、その後には焼きあがったばかりの、ゴボウサラダの上からチーズをかけた総菜パンでいっぱいの籠が置かれていた。その時思った、パン屋そのものは無くなってしまったが、ちゃんとパン屋さんは仕事をしているのだと。実を言うと、一階に新しくできた休憩コーナーは、元はと言えば、パン屋の店があった場所で、すぐ隣は今でもパン屋の仕事場だと思われる。だが、以前と違っているのは、ガラス越しに、パンの生地をこねて、楽しそうに作業する職人さんの姿がもう見られないと言うことだ。

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