人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

自分の仕事を楽しむ人たち

効率優先より、まずは楽しむ?

 今回の旅行で、あれ~?と首を傾げ、そんなことが?と訝しく思ったことが多々あった。それは、単なる事務的な仕事、あるいは、惰性でする仕事だとばかり思っていたら、予想外の質問や行動に遭遇して、驚かされたことだった。いや、半場呆れてしまい、まるで、目の前で起こっていることは、映画でのブラックユーモアなのでは、あるいはたわいもない冗談なのかとさえ思えた。最初の戸惑いは、ヘルシンキのヴァンター空港で、パリ行きの便に乗り換える時に起こった。入国審査のための列に並んで、自分の番を待っていた。私の前には二人ぐらいたので、これくらいならすぐ自分の番がくると思っていた。ひとりの男性が係官とやり取りの真最中だった。普通は渡航の目的、これから向かう目的地の場所、帰国日等を聞かれて、すぐに終わるはずだった。

 ところが、係官と男性の会話はなかなか終わりそうにない。いったい何を話しているのか、何か問題でもあるのだろうか。私の方まで、話の内容がわずかだが聞こえて来た。係官の「旅の目的は何ですか」という質問にその男性は、「ビジネス」と答える。すると、「どんな仕事ですか」みたいなことを聞いてくるので、持っていたカバンから、書類のようなものを取り出して、係官に差し出して見せる。書類を受け取った係官は興味津々のようで、パラパラと捲って、一通り目を通している様子。その後で、また何か質問すると、ようやくパスポートを開いて、スタンプを押した。その間、10分くらいだろうが、待たされているこちらにとっては、気の遠くなるほど長い時間に思えた。

 次は私のすぐ前の若い女性で、彼女と係官との会話も同様に長かった。彼女は話の内容から察すると、観光ではなくて、留学か何かが目的のようだった。彼女の話に係官は楽しそうに耳を傾けている。どうやらこの時の係官はいつもの事務的なやり方ではなくて、目の前の旅行者、ひとりひとりとのやり取りを楽しんでいるようなのだ。身も蓋もない言い方をすれば、単にパスポートにスタンプを押せばいいのである。最低限度の必要な事だけ質問すればいいのに、その方が早くて効率もいいのに、それでは彼のポリシーに反するのだろうか。考えてみると、今の世の中は効率優先で、どこもかしこもスピード優先で、早く早く!と急かされる。そんな世の中の流れに逆らうかのように、この時の係官は、自分の仕事で遊んでいる、いや、自らのやり方で仕事を楽しんでいるのだと私は解釈した。

 単にパスポートにスタンプを押すだけではつまらないではないか。おっと、いけない。これは係官の仕事のことを何も知らない浅薄な私の独り言だ。だが、目の前にいる旅行者一人ひとりに興味を持って向き合えば、自然と会話は豊かにならざるを得ない。 世界は広く、毎日沢山の人と会話が楽しめる。会話と言っても、たった10分足らずとは言え、目の前にいる人の人生の一端に触れることができるのだ。楽しくないはずがない。想像するに、彼は相当な話好きで、フレンドリーな性格なのだとお見受けした。それにしても、あんな係官がいるなんて、本当に面食らって、冷や汗が出た。

 やっと私の番になった。渡航の目的を聞かれ、「観光」と答える。次は目的地で「パリ」と答える。最後に帰国日で終わりかと思ったら、まだ続きがあった。信じられないことに、「あなたはそこで何をするのか」と聞いてくる。それで、私はパリからロンドンに行く予定だと答えると、「では、また飛行機に乗る必要があるね」と尋ねてくる。「ロンドンへはユーロスターで行くのだ」と説明すると、「ではロンドンから日本に帰るのか」とまた尋ねる。「そうではなくて、またパリに戻り、TGVでスペインに行ってマドリードから帰る予定」だと詳しく話すと、「なんだか、複雑だね」と苦笑いされた。その間、たいして英語を喋れもしない私は予期せぬ試練?に遭遇して焦りまくった。

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