人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

自分の仕事を楽しむ人たち その2 

仕事にメリハリを、いい意味で息抜きをする

 昨日の続きを書こう。最初の驚きはヘルシンキでの乗り継ぎの際の入国審査の時だと書いたが、次に遭遇したのは、ロンドンからパリへ帰るときだった。ユーロスターに乗るために、セントパンクロス駅で荷物検査を受けた。その際、荷物はとっくに赤外線の機械の中を流れて、あとは荷物の主が迎えに来てくれるのをはるか向こうで待っていた。だが、肝心の人間の検査が滞っていた。いや、正確に言うといつものように、列に並んだ順番通りには行かなかった。なぜかと言うと、担当の係員がどういうつもりか知らないが、どういう基準があるのか知らないが、人選をしていたからだった。

 つまり、どう見ても、彼は遊んでいて、私たちが戸惑い、訝しく思うのを楽しんでいた節がある。自分が勝手に選んだ人から、先にセキュリティの枠を通らせて、私たちが、「ええ~、どうして?」と首をかしげるのを見ても、お構いなしだった。それに、誰一人、文句を言う人もいなくて、どう見てもふざけた行為なのに皆容認していた。「ふざけた」と書いたが、これくらいのユーモアは受け入れるくらいの度量はあるのだと感じた。きっちり、真面目にやらなくていい、スピードだけを重視しなくていいのだ。私も最初は戸惑っていたが、そのうち戸惑いを通り越して、笑うしかなくなった。少し待たされたが、ちょっとしたハプニングのようなものだ。

 あの時、私はいつものように、荷物を専用の箱に入れて、ターンテーブルに流した後、セキュリティチェツクの列の前に並んだ。さて、次は自分の番だと思ったら、すぐ横に黒のスーツを着た小柄な女性が立っていた。私はてっきり彼女は係員か何かだとばかり思っていたら、驚いたことに乗客で自分の順番を待っていたのだ。当然、次は彼女の番だったが、係員は、「そこの大柄の君、前へ進んで、君の番だよ」と私たちのすぐ後に立っている体格がいい男性を指さした。男性が戸惑っていると、「そうそう、君だよ」と再度前に進むように促す。こんな理不尽な話はない、思わず、「どうなっているの?」と側にいる黒のスーツの女性に尋ねてみるが、その人も「訳がわからない」と顔をしかめる。マッチョな男性がセキュリティの機械を通ると、次は私たちかもと期待したら、またフェイントで別の人だった。係員は見るからに楽しそうで、順番を待っている私たちは彼の遊びに付き合う形になった。

 考えてみると、毎日同じ仕事を滞りなくきちんとすることは想像以上に大変だと推察できる。だから、これくらいの”遊び”は許されるべきだし、またそう言う息抜きも必要なのではないだろうか。そうでもしない限り、息苦しくて、耐えられないのではないかとさえ思う。以前見た中国ドラマ、「則天武后」でファンビンビン扮する寵妃が皇帝に宮中に勤める使用人についてこんなことを言っていた。「陛下、使用人も毎日毎日決まりきった仕事ばかりしていては、どうにかなってしまうのですよ」と。そして「そんなとき、彼らは何をすると思いますか」と聞いてみるのだが、そんなことはわかるはずもない。皇帝はその答えを知りたがる。それで彼女は、「彼らは仕事の時、仲間とすれちがった瞬間じゃんけんをするのです」と種明かしをする。それを聞いた皇帝は、「仕事の最中にそんなふざけたことをするとは何事か」と憤るが、彼女は「それが彼らの唯一の息抜きなのですよ」と諭す。「彼等を責めないで欲しい、彼等には息抜きが必要なのですから」と別の面から物事を見るように進言する。ここまで書いて来て、ふとドラマのそんな場面を思い出した。

 ある意味、私が遭遇した状況は人と人とのコミュニケーションなのだと捉えるとすとんと胸に落ちる。単なる機械的なやり取りで終わるはずの場面であんな、「もしかして、どっきりカメラ!?などと思いかねないハプニングに遭遇したことは忘れがたい、貴重な経験と言えるだろう。

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