人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

家こそ快適な仕事場

ホテルで仕事、さぞかし集中できると思いきや・・・

 先日の日経新聞の夕刊に連載されている岸本葉子さんのエッセイのタイトルは「家こそ快適な仕事場、再確認」だった。岸本さんは住んでいるマンションの上階の工事のため、やむなくビジネスホテルで仕事をするのを余儀なくされた。この日は9時から5時まで騒音出ます、と予告されてしまったからだった。大した騒音でもないんじゃないと軽く考えたが、何でも念には念を入れて、保険をかけて置く性格の岸本さんはビジネスホテルを予約しておいた。ホテルは家から電車で30分のところにあるので、何か足りないものがあってもおいそれとは戻れない。そのため、まるでちょっとした小旅行に行くような荷物になってしまい、おまけにあれもこれもと準備をしていたら寝るのが遅くなった。案の定、当日は寝過ごして、時計を見ると9時を過ぎていた。

 すると「頭上で道路工事でも始まったかのような騒音」が襲ってきて、ホテルを予約して置いてよかったと安堵した。実は以前私も近所のマンション建設に伴う騒音に悩まされたことがあるので岸本さんの心境はよくわかる。ただ、岸本さんと違うのは、騒音が一日だけでなく、1週間以上、いやもっと長い期間にわたって続いたことだ。と言っても、私が地獄の体験をしたのはたった一日だった。つまりその日は体調を崩して家で休みたいと思っていた日だった。家で寝ていたら、突然ガシャガシャ、ガア~ンという轟音が聞こえたと思ったら、突き上げるかのような地響きがした。

 何事かと思ったら、いつも駅に行く途中にある民家が壊されて、更地になっている場所で重機を使って工事が始まったらしい。要するに普段は会社に居るので、全く気付かなかった。変な話だが、会社を休まなければ、私には全く関係のないことだったのだ。ただ、毎朝その工事現場を通る度に、普通は取り付けられている防音壁も何もなかったので、これじゃあ、近所の人はうるさくて仕方ないだろう、だなんて他人事を言っていた。まさか、自分事になるなんて、夢にも思わなかった。

 話を元に戻すと、岸本さんは「ホテルを予約しておいてよかった」とビジネスホテルに落ち着いた。ところが、普段からホテルで仕事をするのに慣れていなくて、あの逃げ場がない閉塞感がどうにもこうにも落ち着かない。何もない理想の空間で、雑念を振り払って集中できると思いきや、それが続かない。それに肝心の仕事をする机の目の前に鏡があるので、気になって仕方がない。これはホテルに”あるある”のお約束みたいなもので、机と椅子が置いてあると必ずその前には立派な鏡があることが多い。本音は鏡は邪魔で、なぜここに鏡があるのだろうといつも考え込んでしまう。バスルームにある鏡で十分なのにと思うが、こちらは遊びで泊まっているので、そんなものかと深く追求はしないだけだ。

 岸本さんは用意周到な方なので、こんな不測の事態に備えて、近場のジムのダンスフィットネスを予約しておいた。その後、ホテルに戻り、仕事を再開するが腰が痛くて、思うように進まない。ここでふと思うのだが、喫茶店で仕事をすると言う選択肢もあるのでは。それについては昔のトラウマがあって、岸本さんの頭には浮かばなかったようだ。原稿を手書きしていた頃、シャープペンシルの芯が折れたが、スペアを持っていなくてすごすごと退散した苦い思い出があった。

 私もかつては毎週のようにカフェに通い詰めていたが、自分の世界に入れる時はいいが、そうでないと辛いものがある。店によっては座席の位置が鏡の正面というところがあったり、あるいは、隣の席の人が貧乏ゆすりをしたり、あろうことか鼻をほじくったりしているのが気になってしようがない時がある。皆がひとりで自分の世界に浸っている空間で、突然電卓のキーを叩くけたたましい音にギョッとさせられて、居たたまれず退散したこともある。

 だが、今はコロナ禍のおかげで、自分の部屋が一番落ち着いて、集中できる場所だとわかった。岸本さんも今回ビジネスホテルを体験したことで、家こそ快適な仕事場と再確認したのだ。

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