
今では立派な熟女だが・・・
実家にいる末っ子のおチビはまさに運命に導かれるようにして、家の猫になった。実家の隣りの家は昔から、お菓子などに使う箱を作っていて、今ではあちこちに工場を持っていた。現在では、もう自宅では作業をしていないのだが、昔倉庫に使っていた建物がちょうど実家の隣にあった。ある日そこから、猫がぎゃあぎゃあと煩く鳴く声が聞えたので、近所の人が様子を見に行ってみると、どうやら生まれたばかりの子猫が一匹いるらしい。親猫はどうしたのだろうと、辺りを探してみるが影も形もない。このまま放っておいたら、死んでしまうだろうし、それに気になってどうしようもない。たいてい野良猫のことを気にかけるのは、猫好きで、すでに猫を飼っている人に限られる。義姉のミチコさんもその一人で、近所の人とどうするかを相談した。当の倉庫の持ち主は自分の商売のことで、お金儲けに忙しく野良猫のことなど一向に気にする様子はない。
どうにかして!と訴えるように鳴いているチビ猫をどうしたらいいものかとミチコさんたちは途方に暮れた。3人いれば文殊の知恵で、最良の考えが浮かぶものだが、その時はまさに例外だった。誰もが「引き取る」とは言い出しにくかったのは、その猫が見た目が悪すぎたことで、せめて顔がもう少しさっぱりとして、思わず”可愛い”と声に出せるようだったなら、あんなにもめなかっただろう。冒頭の写真でも分かるように、顔に墨を垂らしたような顔だったから、すぐには引き取り手がなかった。それで、ミチコさんが仕方なく、助け舟を出して、「一応預かる」ことにした。この猫をどうするか、誰が引き取るかは、おいおい決めることにしたのだ。
そんなふうにしてこのチビ猫、おチビは家にやって来た。とりあえずの処置で、ゲージはスーパーのカゴで、今にもよじ登って外に出そうなので、使わなくなったアルバムが入った箱で蓋をして閉じ込めていた。何年か前のちょうどお盆前で、ミチコさんが電話で、「今ねえ、生まれてそう間もない仔猫がいるわよ」と嬉しそうに話していた。そんな話を聞いたら、猫好きの私は、もう会いたくてたまらなくなった。実家に行ってみると、仔猫がここから出してくれと言わんばかりに激しく鳴いていた。それならとばかりにすぐにカゴから出してやると、歩こうとするが上手く歩けない。そう、まだ乳飲み子で、動きたいのに足元がおぼつかなく、こちらも心配で気が気でなかった。子猫がフラフラと歩き回るのにつきっきりになり、何かにぶつかりそうになったら守ろうと必死になった。危なっかしいのに、仔猫は冒険をものともせず、向こう見ずで勇敢だった。何も考えていないと言えば、語弊があるが、驚いたことに、あんなチビでも危険を敏感に察知していた。
それは実家では、猫のトイレは玄関の脇に置いてあったが、玄関にあるあがりはなからはチビ猫には深い谷のように思えて降りられない。すると、スイカが入った段ボール箱を利用して、上手にトイレに降りることに成功した。「こんなチビでもなかなかやるじゃん」とつくづく感心した。なにぶん、生まれたてのほやほやなので、ミチコさんがスーパーでネコ用のミルクを買ってきた。飲ませようとすると、そのそばから緑のうんちをしたのには、思わず爆笑した。最初のうちはミルクしか飲まないと思っていたのに、1年ほど先輩猫のノンさん用のカリカリに果敢にもかぶりついていた。いくら何でもまだ早いよ、無理じゃない、というミチコさんと私の想像を遥かに通り越して、チビ猫はカリカリを食べるようになった。
さて、おチビは確かにちょっと見は器量が悪い。だが、目は大きくて宝石のごとくキラキラと輝いていて、とても綺麗だ。残念なのは、現在ではあのチビ猫時代の生命力は消え失せて、ただの普通の猫になってしまったことだ。仕方ないか、いくら何でもずうっと息がよかった頃のままではいられないのだから。
mikonacolon
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