人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

町田そのこさんのアラザン

 

アラザンを知らなかった!?

 作家の町田そのこさんが日経のコラム『プロムナード』にアラザンで失敗したエピソードを書いていた。アラザンとはケーキのトッピングに使う銀色の粒粒のことだが、町田さんは子どもの頃、その存在を全く知らなかった。初めてアラザンというものがあることを知ったのは、学校の料理クラブでホットケーキを作ったときだった。皆でホットケーキに乗せるトッピングの材料を分担した時、たまたま町田さんはアラザンの係りになった。アラザンとはいかなるものか全く見当もつかなかったが、母親にアラザンを買ってくるように頼んだ。そして、アラザンを一目見たとき、その輝くばかりの銀色の粒に感動した。銀色の粒は町田さんを銀世界に連れて行った。町田さんはほとんど夢心地になった。

 さて、料理クラブでホットケーキを焼き、お待ちかねのトッピングの瞬間が訪れた。だが、町田さんは皆にアラザンがあまり人気がないことにショックを受けた。誰もが皆アラザンを数粒しか振りかけなかったからだ。輝くばかりの美しい銀色の粒がなぜこんなにも人気がないのか全く分からなかった。無理もないことで、町田さんはアラザンの取り扱い方法を知らなかっただけなのだ。町田さんに罪はない。もちろん、当然のごとく、アラザンをホットケーキの上にばらまいた。すると皆が一斉に声をあげた、「そんなにかけてどうするの」だの、「ほんの数粒でいいってこと、知らなかったの」などとの非難の言葉が町田さんに降り注がれた。穴があったら入りたいとはこのことだった。このアラザンでの失態が今でも、ふと苦い思い出として蘇ってくるのだと言う。

 それはさておき、アラザンというと、今ではもう死語になりつつあると言いたいくらい、普段見かけない。昔はよくケーキなどのトッピングに使われて、その存在を誇示していたが、今ではとんとお目にかかれない。クリスマスケーキにしたって、昨今は生クリームとイチゴが主流で、アラザンの出番はないようだ。子どもの頃、アラザンの名前は知らなかったが、銀色の粒は何かと目立っていた。どんな味なのかと口の中に入れてみたら、その見かけとは違って苦くて、とても食べられたものではなかった。口の中でガジガジして、すぐに吐きださずにはいられなかった。これは間違っても食べるものではない、と子ども心に刻んだ。それでもやはり、アラザンのおかげで、クリスマスケーキの見かけはいっそうバージョンアップしていたことは確かなのだ。

 子供の頃、11歳上の兄が会社から貰ってくるクリスマスケーキが楽しみだった。4年前に亡くなった兄は最初信用金庫に勤めていたが、その後新しい仕事に就いた。その会社が家族経営の小さな会社だったせいか、クリスマスには社員にケーキを支給していた。その頃のクリスマスケーキは飾りが多彩で、蠟で作ったサンタクロースのオブジェやら、トナカイやら、もみの木が乗っかっていた。時には茶色の小さなお菓子の小屋もあって、それはウェハースでできていた。今思うと、あの山小屋とも思われる小さな小屋はイエスキリストがこの世に誕生した神聖な場所を意味していたかもしれない。生クリームのデコレーションにはアラザンが振りかけられていて、ゴージャスな雰囲気を醸し出していた。そう、確かにアラザンはいい仕事をしていたのだ。昔はなくてはならなかったアラザンが現在では見る影もないのはどうしてなのか。時代の流れで片付けるのは簡単だが、今一つ納得がいかない。

 正直言って、アラザンのことなど、すっかり忘れていたが、町田さんのエッセイを読んで昔を思い出した。以前はよくパウンドケーキを焼いていたので、お菓子の材料の名前だけは知っていた。アンゼリカ、オレンジピール、レモンピールなどの材料を買いに行くと必ず隣にアラザンのパックが置いてあった。それで、子供の頃よく見かけた銀色の粒粒が、アラザンという名前だったことを知ったのだ。

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