人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ラズベリーチーズケーキ

今週のお題「赤いもの」

f:id:mikonacolon:20211110145755j:plain

コルドバのサンタ・マリア大聖堂。NHKまいにちスペイン語テキストから。

遠くから見たら赤いりんご?、でもそれはチーズケーキ

 もう10年くらい前の話ですが、隣町の大通りに1軒の洋菓子店がありました。その店はビルの1階にあり、2階は同じ系列のレストランになっていました。お昼のランチとかも美味しそうでしたが、わざわざ階段を昇ったり、エレベーターに乗って行くのが面倒だったので、とうとう行く機会はありませんでした。でも1階にあるパティスリーは違いました。いつでもショーケースを覗いているお客さんが何人かいたので、緊張することなく気軽に入ることができました。当時の店は持ち帰りが主で、店内で食べられる席は数席しかありませんでした。その代わりショーケースの中は様々なケーキで溢れていて、その美しさに見とれ、味を想像して楽しんでいました。価格はケーキは380円からで、一番高い物は確か1200円ぐらいしました。

 ある日、いつものようにショーケースを眺めていたら、見たこともない赤くて円い物を発見しました。その形はまるで真っ赤なりんごでした。よく見てみると、それはレアチーズケーキで上からラズベリーソースをかけて、ゼリーで固めてありました。りんごの真ん中にはアクセントとしてペパーミントの葉が添えてありました。真っ赤なりんごに緑色はとても新鮮でした。その魅力的な赤い色にどうしようもなく惹きつけられて、迷わず買ってしまいました。早速店内で食べてみると、最初にラズベリーの甘酸っぱさを味わった後、次はレアチーズの滑らかさとプルプル感を堪能しました。一目ぼれした外見に間違いはなく、それにふさわしい中身でした。ラズベリーチーズケーキに味を占めた私は、それからもその店に通い続けたのですが、決して続けて行くようなことはしませんでした。どんな美味しい物も毎日食べていれば、それに慣れて飽きてしまう、と誰かが言っていた気がします。そんなことにならないためにも、食べたくてたまらないときや、自分にとって特別な日だけに限定していました。

 近所の知人にラズベリーチーズケーキのことを話したら、その店なら昔よく行っていたと言われて驚きました。でも彼女は今はもう行かなくなったと言うのです。その理由はシュークリームの味がまるっきり変わってしまったからでした。彼女の話によると、その店はシュークリームが美味しいことで有名な洋菓子店だったのです。フランスパンが外の皮がパリパリしているのに、中はふわっとしている食感が堪らないように、シュークリームの皮も同様なのでした。その店のシュークリームの皮も堅そうなのに実は柔らかくて、中に入っているカスタードクリームの味も最高だったのです。

 なぜ突然何もかも変わってしまったのか。それは長い間シュークリームを焼いていた職人さんが店を辞めてしまったからでした。いったい何があったのか、私たちには知る由もないのですが、それなりに諸事情があったのだと推察するしかありません。でも職人さんが辞めたとしても、レシピはあるわけですから、普通は何の問題もないはずでした。ところが、以前と全く同じ物はできないらしく、その残念な真実をいち早く実感したのは何よりもお客さんでした。彼らは食べ慣れた舌で変化を感じ取り、「これはあのシュークリームとは別物だ」とわかったのでした。その結果、自然と店に足が向かなくなってしまったと言うわけです。

 実を言うと、私もあの店で最初に買ったのはシュークリームで、一番安くて1個200円でした。食べてみると、皮が少し硬めなのが気になりましたが、中のクリームはまあまあの味です。なのに「また食べたい」という気持ちにはなれませんでした。考えてみると、知人の言うことも納得がいくのですが、職人さんの力は絶大なのだと実感したのです。そして、できることなら、彼女が知っている絶品のシュークリームを自分も味わいたいなあなどと叶わぬ願いを抱いてしまうのです。

mikonacolon