人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

フードデリバリーサービス

素泊まりの宿で利用して、感激!

 『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した作家の町田そのこさんが日経の夕刊のエッセイに書いていた、フードデリバリーサービスを利用するのか夢だったと。どう言うことかというと、町田さんは九州の福岡に近い田舎に住んでいて、コンビニに行くのにも徒歩で20分かかるという。家の窓から見えるのは田んぼで、のどかな田園風景が広がっている。そんな鄙びた場所に住んでいると、たまに東京や大阪に出かけて、街中を疾走するフードデリバリーのバイクを見かけると、良いなあと思う。電話をして後は待つだけで、わざわざ出かけて行かなくても美味しくて暖かい料理にありつけるなんて、まさに魔法だとしか思えない。一度でいいから、そんな魔法にかかってみたいと日々憧れていた。

 そうしたら、”願えば思いは叶う”もので、ひょんなことからフードデリバリーを利用する幸運に恵まれた。町田さんは温泉が好きなようで、思い付きでふらっと出かけることがある。予約というものをしないので、当然宿探しは難航し、その時は素泊まりの宿しかなかった。家族も一緒で、外食でもしようとなったが、寒すぎて外に出る気にならなかった。だが、町田さんはそこで、あることに気付く。その宿はフードデリバリーサービスの範囲内にあったのだ。町田さんは不幸中の幸いとも言うべき贈り物に小躍りし、家族を呆れさせる。町田さんは魔法の素晴らしさを大いに堪能し、満足した。その一方で、「サービスとは、自分の便利を誰かに背負ってもらっているということだ。いくら金銭のやり取りがあったとしても、誰かの労力を消費していることを忘れてはいけない」と自分を戒めている。

 私自身はフードデリバリーサービスを利用したこともないし、また積極的に利用したいとも思わない。何かを食べたければ、自分で歩いて行って、注文して手に入れればいいだけのことだからだ。つまり、町田さんと違って私は徒歩圏内に様々な店がある地域に住んでいるからだ。たまに実家に帰省して、義姉のミチコさんに「こっちって、ウーバーイーツってあるの?」と聞いてみたことがある。実家は車がなければ生活が成り立たない地域にあり、当然「そんなものはないわよ」と即答される。ただ、ミチコさんはフードデリバリーサービスに対する憧れは微塵もないようで、それ以上話は進まず、お開きになった。ミチコさんにとっては、車は自分の分身のようなもので、自分で動けば何も人にわざわざ持ってきてもらわなくてもいいという考えなのだ。そこに面倒臭いという感覚は入り込む隙は無いらしい。

 街を歩いていると、特にマグドナルドの店の前で、何人かの人たちがたむろしているのを目撃することがある。道路の手すりに腰を掛けて、2,3人で談笑して、何かを待っている。彼らの足元には四角い箱があり、ウーバーイーツとか、あるいは他の名前が書いてある。それで、なるほどこの人たちは皆フードデリバリーの配達員なのだと気付く。以前はフードデリバリーサービスの配達員は人気のアルバイトだった。以前やっていたドラマの『賑やかな男たち』では、主人公の相場君が突然職を失い、とりあえずフードデリバリーの配達員になる。テレビの情報番組で、月に100万円も稼ぐ強者もいるのだと知って、仰天したものだ。だが、最近はそうでもないらしい。以前は配達依頼一軒に付き、400円から700円の手数料だったのに、今は単価が下がって300円になったとか。要するに、以前ほどは割のいい仕事ではなくなって、稼げなくなってきているのだという。テレビのインタヴューで彼等のひとりが言っていた「所詮、フードデリバリーサービスは金持ちのためのもの」という言葉がとても印象的だった。

 そう言えば、昨年の秋、ロンドンに行った時、お馴染みのあの四角い箱を背負った人たちを見かけた。箱にはgourmet(グルメ)を連想させるロゴが付いていて、一目でフードデリバリーサービスの配達員だと分かった。その時私は予約したホテルを探していて、彼等なら詳しいかもと尋ねてみた。ところが予想はハズレて、全然わからないといわれてしまった。

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