人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

パリ北駅からモンパルナスのホテルへ

白タクの運転手が提示した値段に仰天

 ロンドンからパリ北駅に戻った私は、タクシーで移動すればいいと思っていた。実を言うと、タクシー乗り場に長蛇の列があったらどうしようと心配していたが、パリを離れる際に、駅周辺にTAXIが何台も止まっているのを目撃し、「あんなにいるのだから、何も心配することないじゃない」と楽観的に考えていた。だが、実際は、どうやらそれらのTAXIはほとんどが白タクだったらしい。

 さて、北駅からモンバルナスのホテルまで乗せてくれるTAXIを見つけようと、舗道で客待ちをしている運転手の男性の方に近づいていった。その時、ひとりの若い女性がTAXI運転手と何やら話し込んでいるが見えた。だが、交渉は上手く行かなかったらしく、女性はすぐにその場を後にして、何処かに行ってしまった。そんな光景を目撃した私は、一瞬、「あれ、これは少し変だぞ」と不安になったが、とりあえず運転手と話をすることにした。「モンバルナスまで行きたいんだけど」と尋ねると、彼は驚いたことに「モンパルナスには行かない」などと宣った。信じられない、ではどこならいいのか、と内心憤るが、すぐに諦めて立ち去ろうとした。すると、私の申し出を断ったはずの彼が近づいて来て、「60ユーロなら、行ってもいい」などと言うので、呆れ果てた。

 60ユーロと言えば、日本円で1万円に相当する。パリに着いて、すぐにオペラ座からサンジェルマンデプレまでTAXIに乗ったが、10ユーロだった。パリ北駅からモンパルナスまではその倍ぐらいの距離があるが、いくらなんでも60ユーロは”ぼったくり”だ。それで、彼らは普通のTAXI運転手ではなくて、噂に聞いていた白タクなのだとようやく気付いた。こんな法外な料金では誰も利用しないのも納得がいった。相手にするまでもなかった。

 だが、実際問題として、モンパルナスまでどうやって行けばいいのだろう。その時、私の頭の中に地下鉄の路線図が浮かんできて、「そうだ、地下鉄なら乗り換えなしで行けるじゃないか」と冷静なもうひとりの自分が囁いた。思えば、パリのルーブル美術館に歩いて行ける距離にあるホテルのフロントにいた女性から、地下鉄での北駅への行き方を教わった。あの時、確かモンパルナスへも同じ4号線で行けることが分かっていた。少々、どころか、かなり不安だったが、”見る前に飛べ”と言わんばかりに、行動したら、意外に上手く行った。地下鉄のモンパルナス・ヴィエンブニュ駅は、フランス国鉄のモンバルナス駅と直結していた。そのため、初心者の私でも、サイン通りに進んだら、あれよあれよという間にモンバルナス駅の特徴であるガラス張りの正面玄関の前に行きついた。

 そこから、ホテルへの行き方は事前にGoogleの航空写真で確認しておき、印刷して旅行ノートに貼っておいた。だが、言うまでもないことだが、実際とそれとはかなり違って見えたので、すぐには行くべき道がわからなかった。それに、パリは日本と比べて暗くなるのが早いようで、辺りはかなり薄暗くなっていた。それでも、ここの通りしかない、と見当をつけて歩いて行った。道すがら、ブーランジェリー(パン屋)やカフェなどが立ち並ぶのを見ながら、この辺りはとても賑わっているなあと感じた。

 自力で見つけられる場所にあるホテルを選んだつもりだった。そう簡単にはいかなかったが、「エレーヌ・モンパルナス」と書かれたウインドーを発見した時はホッと胸を撫でおろした。そもそもモンバルナスの駅近くに泊まる目的は、翌日TGVでスペイン国境に近いアンダイエに行くためだった。なので、料金が多少高くでも目をつぶって、一晩だけなのだからと自分を納得させた。だが、初めは最高だと満足していたこのホテルでも、あろうことか事件は起こるのだった。

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