人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

やる気が出ない時の特効薬

今週のお題「やる気が出ないときの◯◯」

まずは沈んだ気持ちを明るくしないと

 今読んでいる朝井リョウさんによる新聞の連載小説『生殖記』では主人公の尚成(しょうせい)君がやる気を出す場面がある。彼は企業の総務部に勤務しているのだが、その日はちょうど自分が関わるイベントが行われる日だった。ひょうひょうと生きているはずの尚成君はやる気を出すために、いや何とか一日をやり過ごすためにどうしたか、と言うと、ちゃんと保険をかけて置いたのだ。その保険とは、会社から家に帰った後のお楽しみを用意しておくことだった。その点において、彼は抜かりがなくて、ちゃんと自分がどうしたらやる気を出せるかを知っていた。自分にご褒美的な考え方だが、逆に考えれば、そうでもしないとやってられないということか。

 彼が自分のために”頑張ったで賞”と準備したのは、なんと牛タンと貰い物のお菓子で、牛タンは尚成君の大好物らしい。貰い物のお菓子はどこかのデパートに入っている有名店のパッケージで、どこからどう見てもハズレはないはずだ。実は彼はこんな時のために、日頃からすぐには食べずにとっておく癖がついているのだ。そこまで考えているなんてと危機管理の能力に感心してしまいそうになるが、そういう問題かと突っ込みたくもなる。そんな短絡的な欲望を満たすものでいいの?と当方は一瞬思ってしまったが、食べ物で自分をその気にさせることができれば安い?ものなのだ。

 考えてみると、尚成君はまだ30を過ぎたばかりでを若い、なのでまだ食べ物で何とか自分を宥めすかすことができるのかもしれない。彼よりだいぶ長く生きている当方は、もはや食べ物では納得しないのだ。”その手は桑名の焼き蛤”と言わんばかりに、冗談じゃないと頑として首を立てには降らない。悲しいことだが、おばさんには食べ物は通用しないのだ。どんな大好物も熟女にとってはやる気を出すための特効薬にはなりえない。ではどうしたらいいのか。何ならやる気を、いや、この場合はまず、沈んだ心をあげるというか、明るくするのが先決というもの。

 ではいったい何に頼ったら最大限に明るさを取り戻すことができるのか。お気に入りのドラマはどうだろうか、あるいは感動必至の映画はどうだろうかとあれこれ考えてみるが、”これ”というものが見つからなかった。それに、当方の直面している問題を解決する決め手は感動よりもむしろ思わず声を上げずにはいられない”笑い”ではないのか。考えてみると、普段から何が可笑しいのかわけがわからないが、しょうもないことなのにケラケラ笑ってしまうことがよくあった。そう、それはラジオ番組で、『NHK中国語講座』だったり、TBSラジオの『宮藤さんに言ってもしようがないんですけど』と言った番組だった。「笑う」という行為は摩訶不思議な現象で、現実の生活で一つもいいことがないのに笑うだけで、なんだかいいことがあったような気になってしまう。単なる微笑ではなくて、ゲラゲラと声を上げて笑うことは沈んだ気持ちを救ってくれる特効薬のようなものだ。”人は楽しいから笑うのではない。笑うから楽しくなるのだ”ということがよく言われている。今更ながらその言葉が真実なのだということを実感する。

 ”笑う門には福来る”とも言われるが、当方は何とか沈んだ心に明るさを取り戻すことに成功し、「まあ、いいか」と諦めがつく。つまり、ごちゃごちゃ言い訳をしないで目の前にあるやるべきことをやってしまおうと”やる気“を出すというわけだ。それまで気乗りしなかったことを、今ではやろうと思えるようになったことがまるで奇跡のように思えてくる。我ながら自分の気持ちの激変に呆れて笑いたくなるほどだ。”人の心は鏡のようなもので、フウッと息を吹きかけただけで曇る”という有名な詩人の言葉はまさに名言だ。

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