人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

”パンどろぼう”に遭遇

予想外の心ときめく出会いが

 先日スーパーにズボンを買いに行った時、ちょっとした嬉しい出会いがあった。あの時衣料品売り場で、裾直しをお願いしたら、出来上がるまでに1時間ほどかかるといわれた。それで、地下の食料品売り場で、以前あったパン屋のものと思われる総菜パンを買って休憩コーナーで食べた。あいにくスマホを忘れて、時間がわからないので、店内の散策も兼ねて、2階の生活雑貨のコーナーに行ってみた。エスカレータを降りると、以前はたしか、ゲーム機と飲み物の自動販売機があり、椅子も2,3あったはずだが、今は撤去されたのか、もう無かった。子どもがゲーム機で遊んでいて、その姿を親が見守ると言う光景をよく見かけた。

 仕方がない、今はどこでもコスパを優先するから、ゲーム機や自動販売機は何台もいらないし、たとえ、無くてもたいして利用客に影響しないのだろう。エスカレーターの踊り場はなんだか寂しい場所に変わったが、閑散としているわけでもなく、ちゃんと商品が並べられていた。ちょうど、これから寒くなる季節なので、温かそうな毛布や羽毛布団が目に留まり、思わず毛布に触れてみた。ふと見ると、隣の売り場に本が並べられているのに気付く。そうだ、ここはたしか、本屋さんで、どちらかと言うと、雑誌や生活関連の実用書が置かれていた場所だった。

 てっきり、本屋はもう無くなったと諦めていたので、本屋が残っていたことに安堵した。どう変わったのか気になったので、うろうろしていたら、すぐに別の商品の棚を見つけてがっかりした。そう、予想した通り本屋のスペースは恐ろしく縮小されていた。それでも、雑誌や漫画本はあったし、それに現在の話題本がズラリと並んでいるミニコーナーもあった。私が知っているだけでも、アンデシュ・ハンセンの『運動脳』、東野圭吾の『クスノキの番人』、西條奈加の『心淋し川』、西加奈子の『くもをさがす』と、盛りだくさんで言うことない。

 こんな素晴らしい品揃えを見た瞬間、どうしたことか、急にワクワクしだした私は、本を手に取って読み始めた。まさか、スーパーで立ち読みするとは思ってもみなかったので、余計に心が踊るのだ。どれも見てみたいが、どれも良さそうで、目移りしてしまう。ちょうど、その日の朝刊の新刊の広告で見たばかりのイラストレーター、たかぎなおこさんの『お弁当デイズ』もあった。たかぎさんのイラストはいつ見ても楽しいが、どうしてこんなに詳細に丁寧に描けるのだろうかと感心してしまう。

 さて、次はどれにしようかと考えていたら、ふと隣の棚が気になった。こうも移り気な性格はどうかと思うが、心が望んでいるのだから、従うしかない。それで、隣の棚に目をやると、そこには、ずうっと気になっていた柴田ケイコさんの『パンどろぼうとウオッホッホー』があったので、天にも昇る気持ちになった。まるでサプライズともいうべき予想外の出会いだった。こんな素晴らしい出会いを逃すわけにはいかない。だいたいが、近所の中規模書店では、絵本はビニールにしっかりと包まれていて、中身を見ることはできない。なので、絵本コーナーはあるにはあるが、子供が寄り付くはずもない。

 柴田さんの絵本、特にこの『パンどろぼう』のシリーズは新聞の売れている本のランキングで常に上位だった。それで、私はかねがねその秘密を知りたいと思っていた。なぜこんなに人気があるのか、そこのところを自ら体験してみたかった。『パンどろぼうとウオッホッホー』のお話はパンどろぼうがメロンパンを一山超えた村に届けに行くところから始まる。ヤギのおばあさんが孫の誕生日プレゼントにメロンパンを届けてくれるように依頼したのだ。だが、ひと昔前の飛脚のごとく、遠い道のりのため、パン泥棒は疲れ果て、肝心のメロンパンも冷たくなってしまった。おまけに、天気は雨模様で、途中で車に水しぶきをかけられてしまう。パン泥棒もメロンパンもグッショリ濡れて、さてどうしたものかと泣きたくなった。

 ところが、ここからの展開が秀逸で、なんとブタの天才エンジニアが登場して、物語はめでたしめでたしとなる。想像力が天文学的に乏しい私などは、エンジニアとメロンパンと、いったいどんな関係が?と訝しく思った。種明かしをすると、こんなことになる。天才エンジニアは3Dプリンターもびっくりの技術でもって、美味しそうなイギリスパンの形の車を作り、それはなんとパンが焼ける設備のあるキッチンカーだった。そして、ヤギのおばあさんの孫が住む村に着くと、すぐにメロンパンを焼いて孫にプレゼントした、というわけだ。焼き立てで、アツアツのめろんぱんに孫のやぎは大喜びした。無事にパンどろぼうのミッションは完了したのだが、それにしても、こんなストーリーはどこから出てくるのか。柴田さんの類を見ない発想力に脱帽するしかない。

mikonacolon