人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

24時間営業の中華料理店

 

人間ドラマが興味深い

 ビデオに録っておいたNHKの『ドキュメント72時間』を見た。この番組はいろんな場所に出向き、カメラを回し続けて、気になった人々にインタビューする番組だ。今回の取材場所は東京郊外にある国立市の24時間営業の中華料理店だった。番組を見始めて、まず驚いたのが、お客さんがひっきりなしに来店し、ガランとした風景がないことだ。たとえ深夜であっても、駐車場はほぼ埋まり、人足が途絶えることはない。昼間食べに来るのはわかるが、深夜や早朝に中華を食べるのはなぜなんだろう。そんな素朴な疑問が湧いてくる。朝からラーメンとか中華丼、餃子をパクパクと平らげるのはいったいどんな人たちなんだろう。

 インタビューすると、朝からガッツリ行きたいんで、とか、パワーを貰える気がしてとかと言ったポジティブな発言が目立つ。当方などは、朝からいきなり、脂っ濃いものだなんて、想像するだけで胃が痛くなる気がする。まあ、自分のことはさておき、いつでも中華、いや、朝からでも中華派の人々の声に耳を傾けてみると、これがなかなか面白い。特に夕方から夜遅くにかけては、何処かに出かけた帰りにこの店に立ち寄って食べて帰るのが習慣になっている人が多かった。例えば、おそらく父親と娘二人と思われる3人組は、伊勢神宮からの帰りで、食べ歩き三昧をして地元に帰ってきたところだった。それなのに、やはりこの店の味が恋しく立ち寄ってしまったという。どうやらこの店は地元の人たち皆に愛されているようだ。

 一方では、ラーメンを食べていた小学生の男の子と父親は、カートに乗ってきた帰りだった。なんでも、息子がカートに興味を持ったのがきっかけで、自分も一緒にやるようになり、今度全国大会に出るのだそうだ。へえ~、それは凄い!息子とラーメンをすすりながら、今日のレースの反省会をしているのだと笑っている。父親の仕事は看護師だが、息子と趣味の話で盛り上がるなんて、そう何処にでもあることではない。いつもお互いに批評し合ってはいるが、息子は意外に手厳しいと嘆く。日常生活においての楽しみは好奇心から芽ばえ、それはふとしたきっかけでどんどん膨らむものらしい。私のステレオタイプでコチコチになった頭には、この親子の存在にいきなりガツーンとなった。リアルな人間模様は、小説なんかよりもはるかに面白い。いや、それよりも最近のテレビでやっているヘタなドラマよりも数倍面白いと言った方が的を得ている。

 私が一番気になったのは朝からラーメンを食べに来ていた中年のカップルで、何と、マイラー油とマイお酢を持参するという気合の入れようで、激辛が好きだという。この二人は夫婦のようだが、話をするとき終始笑顔が絶えなかった。夫の方は昔長いこと俳優をしていて、人間の役だけでなく、死体、人間ではないものや、着ぐるみに入る役と、何でもやった。でも、今は電気工事の仕事を自営でやっていて、俳優業はやめてしまった。「なぜやめたのですか」とスタッフが尋ねると、「食えないから」と即答した。やめた一番の理由は結婚したからで、職業訓練校に通い、資格を取って今の仕事をしている。夫は「今の世の中、上を見たらきりがないけど、こうやって仕事があって、美味しいラーメンが食べられたら幸せだよ」と微笑みながら言う。「大変なこともいっぱいあるけど、暗い顔しているより、笑っていた方が楽しいでしょう」と人生における真実のようなことを教えてくれるのだ。彼は明るい面だけを見ていた。努めて暗い嫌~な面を見ないように必死で抵抗していた。妻の方も夫の話にいちいち頷きながら、ラーメンを食べていた。この夫婦は二人で同じ方向を向いているなあと思った。足りないものを数えて、今の生活を引き算で考えればきりがないが、今あるものを数えれば、「そうか、こんなにあるじゃない」と気付けるはずだ。

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