人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

91歳の女性が奈良秘境でひとりで生活

普通に元気な姿に、圧倒される

 テレビ東京で放送されている『なぜそこに、日本人?』を見た。いや、正確には、最初から面と向かって見たのではなく、たまたまテレビが付いているところに通りかかっただけのことだった。すぐに通り過ぎようとしたら、画面から目が離せなくなった。なぜなら、画面のテロップに「91歳の女性が、奈良秘境でたった一人で暮らす」と出ていたからだ。普通は誰だって、まさか91歳のおばあちゃんが山奥でひとりで暮らせるだなんて、夢にも思わない。ところが、画面に登場したおばあちゃんは、91歳とは思えないほど元気で、生き生きとして見えた。自ら畑を耕し、自給自足生活をしているが、唯一困ったことは、自分が精魂込めて育てた野菜をすべて野生動物に食べられてしまうことだ。なすもトマトも全滅で、晩のおかずにキュウリを食べるしかなかったが、翌朝ショッキングな光景がおばあちゃんを襲った。

 なんと、唯一無事だったキュウリまでもがサルにやられていた。地面には無残に食いちぎられたキュウリの残骸があった。もちろん、野生動物が侵入しないように、網で覆っているのだが、なんとサルも考えたもので、網の下をくぐってキュウリを略奪していった。さらに驚いたことに、サルは一匹ではなく、何匹もいて、畑を取り囲んでいた。そうなったら、おばあちゃんも黙って、やられっ放しになってなどいない。爆竹で応戦し、サルを追い払おうとするのだが・・・。それからどうなったのか、私も気になるのだが、残念ながら、続きはわからない。画面に吸い寄せられるようにして、見ていたが、何かの拍子で自分の用事を思い出し、早々に立ち去ったので。後ろ髪を引かれたが、自分のやるべきことを優先し、きっぱりと忘れることにした。

 思えば、テレビの画面を見つめていたのはほんの5分ぐらい、いや、長くても7,8分だったろうが、それだけで私には十分だった。それまで91歳という年齢にたいして抱いていたイメージを根底から覆されたからだ。ヨボヨボで、ナヨナヨしていて、杖なしでは歩けない、そんな姿を想像していたら、いい意味で裏切られた。番組に登場した91歳の女性は”おばあちゃん”とスタッフが呼ぶのが失礼なくらいシャッキッとしていた。普通はその年齢まで長生きしたら、膝が痛いとか、腰が痛いとかといった悩みを抱えていて当たり前だ。だが、その人は急な山道を淡々と上って行き 、番組スタッフの「大丈夫ですか。気を付けてくださいね」がなんとも余計なおせっかいに聞えてくる。

 話を聞いてみると、最初は夫と二人でこの地に住み始めたが、何年か前にご主人を失くしていた。最初から一人ではなかったわけで、ひとりになってからもここで暮らしているのには訳があるらしい。その理由を聞く前に私はテレビの前から退散したので、知る由もないが、それよりも大事なのは、この女性の生きざまだった。つまり、私はこの人がひとりで懸命に生きる姿に勇気を貰ったのだ。自分が大切に育てた野菜を野生動物に食べられるのは、死活問題だ。ナスもトマトもキュウリもやられても、この人はがっかりしない。たいして絶望していないように見えた。そこには怒りも涙も存在しないように見えた。いちいち嘆いていても、どうにもならないのだからしようがないと諦観しているようだった。

 サルが来るようになったのは、5,6年前からで、それまでは畑に野菜が溢れるほどあっても全然興味を示さなかったそうだ。となると、おばあちゃんにとっては、サルとの闘いは日常茶飯事なのだ。夕方になると、薪で風呂を沸かして入る。スタッフから「こんな風景に囲まれて、お風呂に入るのはさぞかし気持ちがいいでしょうねえ」と言われると、嬉しそうに頷いていた。感心するのは、この人には、”疲れた”という言葉は無縁だということ。何もかも自分でしなければならない暮らしの中では、そんなことを感じる暇もないのだろう。たった数分間だったが、背中を押されたと言うか、勇気を貰った貴重な時間だった。

mikonacolon