人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

真夜中に新幹線を運ぶ?

日経新聞に連載されている『登山大名』の挿絵。担当は画家の安里英晴さん。

信じられない光景に唖然!

 週末の土曜日にテレビで偶然、とても貴重な映像を見た。それは、作ったばかりの新品の新幹線を真夜中に輸送しているところで、俄かにはとても信じられない光景だった。新幹線のシャープな顔が付いている車両を台車に乗せて、街中を走行している様子はまさに必見だ。そもそも、あんなに大きな、というか長さのある物を、一体全体どうやって運ぶのだろうか。直線ならまだしも、交差点では曲がらなければならないのに。はたして、そんなことが可能なのだろうか、などと素人的な考えで見ていたら、心配はいらなかった。交差点の幅、ギリギリのところで、何とか曲がれるのだった。その秘密は、台車の後ろにもうひとり人が居て、その人と車の運転手との連携が上手くできれば、問題ないとのこと。台車の後輪の部分はリモコンで動かせるようになってるので、交差点でもスムーズに曲がることができるのだという。

 私は初めて知ったのだが、新幹線は愛知県の豊川工場で作られており、その場所は歴史的に言えば、とても価値のある場所だった。要するに、戦前の軍需工場の跡地なのだ。そこで新幹線は製造され、約35キロメートル離れた静岡の浜松工場に輸送される。私がテレビで偶然見たのは、まさにその光景で、おそらくテレビでは初公開のお宝映像だった。その光景を見て、衝撃を受けた私は、ついつい実家に住む義姉のミチコさんに電話をしてしまった。「あのさ、テレビで今新幹線を運んでいるんだよねえ」などと、ストレートに口に出した。そんなことを突然言われて、一瞬ミチコさんは「ええ~?」と戸惑ったようだったが、すぐに「それって、どのチャンネル?」と聞き返した。慌てている私は、「わからない」としか言えないのに、ミチコさんはちゃんとやっているチャンネルを見つけた。

 ミチコさんも、「新幹線が、こんなふうに運ばれるとはねえ!」といたく感心しているようだ。頭で考えても想像つかないことが、目の前で起きていることに、その紛れもない事実に驚かざるを得ないのだ。実を言うと、ミチコさんは普段から、真面目に「地下鉄って、どうやって車両を入れるんだろうねえ」などと呟いている人だ。普通のおばさんなら、そんなことはどうでもいいのだろうが、その点において一線を画している。好奇心旺盛なせいか、そんなこと考えなくてもいいのにと思うことを考えて、面白がっているようなところがある。

 そんなミチコさんだからこそ、きっと食いつくに違いない、そう確信して、私は電話をした。私の直感は的を射ていた。だが、悲しいかな、新幹線の真夜中輸送の話題はあっという間に終わった。いや、違う、私が見るのが遅かっただけのことかもしれないが、次の話題に切り替わってしまった。それでも、あの時出会わなければ、一生見れない映像に遭遇できたのだから、テレビの発信力は凄いものがあるなあと実感した。

 それともう一つ、私が心を奪われたのは、2月1日から始まった日経の新聞小説の挿絵だった。それまで連載されていたのは、辻原登さんの『陥穽』で、陸奥宗光の青春を描いたものだったが、正直言ってこれはほとんど読んでいなかった。ただ単に切り取って、後ででも読もうとスクラップするのみだった。今度の小説も諸田玲子さんの時代もので、タイトルは『登山大名』だった。主人公は中川久清という豊後国岡藩三代の藩主で、聞いたこともない名前だった。当然、ふ~んとだけ思い、まさか読んで見ようなどとは思いもしなかった。だが、2月1日の朝新聞を開いて見たら、一目見た途端、妖艶と言うか怪しい輝きに満ちた筆致の挿絵にくぎ付けになった。挿絵の書き手は安里英晴さんで、担当者紹介では「人物や風景を浮世絵を思わせる美的な画風で表現する」と説明があった。だが、実際に挿絵を目の前にすると、まさに宗教画のような雰囲気が漂っていると感じた。美しい、ただ見とれるばかりだった。この人の絵が毎朝見られるなら、ついでに小説も読んで見ようと、誠にけしからんことを考えて、今も実行中だ。それに、諸田さんの小説も、冒頭から不穏な動きがあって、この先目が離せない。

 ついでに安里さんの他の素晴らしい挿絵を載せておこう。

 

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