人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

新幹線の車内ワゴン販売

 

たいして利用しないくせに、寂しいだなんて

 JR東海が10月末で新幹線の車内ワゴン販売を終了するとのニュースを耳にした。すぐに、寂しいなあ、という気持ちになったが、すかさず、もうひとりの自分が「何言ってるの、たいして利用しないくせに」と茶々を入れる。思えば、昨今は、ワゴン販売のお姉さんが車両に入ってくると、なんだか冷たい空気が流れるように思ったのは私だけだろうか。皆知らんぷりをして、目を合わせないようにして、自分の世界に浸ろうと顔を背けている、そんなふうに感じていた。まるで、無くてもいいのに、必要ないのにとでも言わんばかりの態度なのだから、あれではお姉さんも笑顔が凍り付くのではないだろうか。それでも、たまには、誰かが気を使ってか、声をかけて、コーヒーなどを買い求めるのを目撃したりする。

 ワゴン販売が終了したとしても、寂しいとは思うが、別段困らないのが現実なのだろうか。でも、私などは過去に何回か、周りの人がお弁当やら、飲み物を買い求めるので、ついつい釣られて自分も買ってしまったことがある。乗車する時は特にお腹も空いていなかったので、大丈夫と乗り込んだものの、周りが皆がさがさと音を立て始め、美味しそうな匂いが車内に立ち込めると、あれ、なんだか腹の虫が騒ぎ始めて・・・。そうなったら、自分だって何か食べたい、いや指をくわえて、他人の弁当の匂いを嗅いで我慢していることが惨めに思えて来た。私だって、食べたいのが本音だった。

 すると、折も折、そこへワゴン販売のお姉さんが現れた。何という絶妙なタイミング,あったらいいなあ、と望んだら、即、私の欲望をかなえてくれたのだ。何という有難い存在なのだろう。でも、これからはそんな奇跡のようなことは起こるべきもない、考えてはいけない、期待してはいけないということなのだ。まあ、初めからわかっていれば、こちらもそれなりに対処できるし、懐かしがっていても埒が明かないので、諦めるしかない。これからは、たいして、お腹が空いていなくても、念のためちゃんとお弁当と飲み物を買い込んで乗車するとしよう。

 ワゴン販売については、もう一つ思い出がある。東北地方の友だちの実家に遊びに行った帰りに、駅の売店で弁当を買い求めようといたら、そこでは売っていなかった。「新幹線の車内で買ってください」と言われたので、乗り込んですぐワゴン販売で買おうとした。だが、私が欲しい幕の内弁当は売り切れてしまっていて、わずかに残っているのは牛めしと鳥めしで、どちらも好みではなかった。どうしようかと躊躇していると、お姉さんが「もしかしたら、売店にならあるかもしれませんよ」と助け船を出してくれた。お姉さんのアドバイスに従って、売店のある車両に急いで行ってみた。だが、残念ながら、やはり幕の内はもう無かった。意気消沈して、自分の席に戻る途中に、遠くにワゴン車の姿を発見し、もしかしたらと急いで追いかけた。

 やっとのことで、追いついたが、またもや、牛めしととりめし残ってはいなかった。そこで初めて、幕の内弁当は人気があるのだということを知った。まずは幕の内から売れていくらしく、日本人は脂っこくない、あっさりとしたものを好むらしい。加えて、あの時は東北新幹線なのだから、わっぱめしや釜飯など他にも種類はあったはずだが、それらは幕の内よりも、”いの一番”に売れてしまうのは容易に想像できた。さて、あの時私はどうしたのだろうか。自分のポリシーを曲げることなく、何も買わなかったのか、それとも、妥協してどちらかを買ったのだろうか。どちらかを買ったとしたら、きっと苦手なとり肉よりも牛肉の方を選んだに違いない。

 思えば、車内のワゴン販売は無くなるとわかって初めて、貴重なサービスだったと気付かされた。あって当然のもので、でも、最近はたいして利用しなかったのに、無くなると寂しいと思ってしまう存在、甚だ身勝手だとは思うが、それが本当のところだからしようがない。

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