人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

救急車の音に慣れっこになって

火事なんて他人事、でもまさかの隣の棟だった

 市営住宅に住んでいる友達の家に遊びに行ったら、ついこの間近所で火事があったと聞かされた。当の彼女も実際の火事の時のことは何も知らなかった。それは夜の12時頃で普通なら皆布団に入って寝ている頃で、気づかない人が多かったらしい。彼女が近所で火事があったことを知ったのは、月に一度必ず回って来る回覧板を見たからだった。そこには「団地内で先日死亡者が出る火災が発生しました。皆さまも火の元には十分に注意しましょう」とだけ書かれていた。これでは火事の詳しい状況や原因がさっぱりわからなかった。一体何階の何号室の誰が亡くなったのか、まったく知らされていないことが不安でたまらなかった。回覧板を見たときは一瞬そう思ったが、忙しさに紛れていつしか忘れていた。あの時自分は全く気付かなかったのだから、団地の敷地は広いし、自分の部屋からは遠く離れた場所に違いないと思っていた。要するに、自分には関係ないことだと高をくくり、まったくの第三者的な見方をしていたのだ。

 そんなとき同じ階に住む自治会の役員をしている人からの手紙が玄関ポストに入っているのを見つけた。封筒には「総会の委任状」が印刷された用紙が入っていて、欠席なら理事に提出すればいいとのことだった。夫の名前を記入し、ハンコを押して、同じ階に住む理事の人のところに持って行こうとした。だが、一瞬あることを思いついた。それは、ついでにあの火事のことを尋ねて、詳しいことを聞いてみたらどうだろうか、と言うことで、それも悪くないと考えた。きっと相手には「わざわざ持ってこなくても、委任状はポストに入れて置いてくれればよかったのに」と言われてしまうだろうことは承知していた。内心「このくそ忙しいときに、いったい何なの!?変な人!」と思われることは十分すぎるほどわかっていた。もし相手が私だったとしたら、絶対そう思うだろうから。

 それで自分の時間を邪魔した”招かれざる客”に対する嫌悪感を少しでも和らげようして、ワイロを持っていくことにした。その時のワイロは田舎から送って来た静岡茶で、まあまあ美味しいお茶だった。彼女は相手の不可解な気持ちへのクッションとして賄賂を携えて、玄関先のインターホンのベルを押した。予想通りの反応で、「ポストに入れて置いてくれればいいのに」と訝しがられたが、「以前いただいた羊羹のお返しです」と賄賂を差し出すと、相手の顔色がパッと明るくなった。「私はお茶が大好きで毎日飲んでるの」と喜ばれたので、それでこの時とばかりに火事の話に話題を移した。すると、「物凄いサイレンで寝ていたけど目が覚めてしまったのよ。ベランダに出たら、すぐ前にある道路は消防車や救急車で埋まっていて、驚いて外に飛び出した人も何人かいたの」と言われて、全くの寝耳に水だった。火事が起こった建物はすぐ隣の建物で6階のちょうど真ん中あたりにある部屋だった。「表の道路から見上げると、ベランダが真っ黒こげになっているからすぐわかるわよ」と聞いたので、実際に見に行ったら、その通りだったが、隣の部屋に燃え移っていないのが不幸中の幸いだった。

 知らなかった、果たして自分はそんな騒ぎになっても平気で寝ていられてたのだろうか。まあ、だいたいが朝が早いので、夜の10時頃には寝てしまうが、それにしたって気づかないなどと言うことがあるだろうか。それで改めて気づいた、この団地内ではやたらと救急車を呼ぶ人が多いのだ。高齢者の一人暮らしが多いのも一因だが、毎度毎度の”オオカミが来たよ」”に慣れてしまった自分たちも危機的な出来事に対しての神経が麻痺しているに違いない。救急車のサイレンに慣れっこになって、「またか」程度の反応しかできないでいることを反省させられた出来事だった。

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