人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

マスターがライバル店視察?

▲2月10日の柘植文さんの漫画『喫茶アネモネ

レトロな喫茶店の店主のマスターが憧れるのは

 先日の金曜日の柘植文さんの連載漫画『喫茶アネモネ』はマスターとバイトのよっちゃんが吉岡珈琲に定期偵察に行く話だった。吉岡珈琲はアネモネの近所にあるコーヒー専門店でお客さんが遠くからでもやってくる人気店である。以前、いつもは常連さんしかいないアネモネに珍しく若者がやって、「あそこの吉岡珈琲ってどうして今日はやっていないんですかねえ」などとマスターに聞いたのである。そんなときはシャイなマスターに代わってよっちゃんが何でも対応することになっていて、「あそこの店主はコーヒーの焙煎が上手く行かないと勝手に店を閉めるみたいですよ」と親切に教えてあげるのだ。すると、その若者は内心「しようがないから、ここの店のコーヒーでも飲んでみるか。まあ、味は大したことないだろうけど」と思いながらコーヒーを注文した。コーヒーは若者の予想通りの味で、悲しいかな、アネモネのコーヒーに奇跡は起きなかった。

 そんなこともあってか、マスターは吉岡珈琲に何かしら劣等感と言うか、それを憧れと言っていいのかどうかわからないが、複雑な思いを抱いていた。それで定期的によっちゃんを伴ってライバル店視察?に来たのだった。何かしら自分の店に真似できるところがないかと真剣に観察してみるが、どれもこれもよっちゃんに却下されてしまう。『物がなくておしゃれ』だからとか、『コーヒー豆を瓶に入れて素敵に並べたい』とか、『コーヒー豆が詰まった麻袋がカッコイイ』とか身の程知らずな発言をして、よっちゃんに冷たくあしらわれる。どれもこれもレトロな喫茶店アネモネにはそぐわないらしいのだ。『今日も何も得るものはない偵察だったよ』とよっちゃんは呆れている。

 マスターからしたら、人気店の吉岡珈琲に一歩でも二歩でも近づきたいらしいが、現実にはいばらの道である。帰り際に吉岡珈琲の店主から『これよかったら、使ってみて』とコーヒー豆の麻袋を再利用したおしゃれなバックを貰った。『若者に割と好評で』と付け加えられたのを聞き逃さなかったマスターはそのバッグを愛用している。どことなく誇らしげで、気分良く見えるマスターだが、周りから聞こえてくるのは『最近マスターよくじゃがいもまとめ買いしているわね、玉ねぎじゃない?』などといううわさ話だ。要するにマスターはおしゃれなバッグを買い物のエコバッグとして使っていたのだ。う~ん、どうやらマスターにはおしゃれと日常生活の区別がつかないらしい。あのバッグは断じて、玉ねぎやじゃがいものために利用するバッグではないのに。だが、マスターの周りとのズレがネタになっていて、目の付け所としてはクスッと笑えて面白い。

 レトロな喫茶店と言えば、都会においてはもう昔から長くやっている店は絶滅して久しい。だが、ひとたび田舎に帰れば、当然のように存在し、昔からの常連客が訪れている姿を目撃する。去年の正月に帰省した時、いつも行く店がやっていなかったので、子供の頃家族で行ったことがある喫茶店に入った。店の名前は『サントス』で、高校に行く時必ずその店の看板を横目に自転車で通ったものだ。その店そのものよりも、看板に書かれたサントスという名前が懐かしかった。あんな昔から今までずうっと潰れもせず今でも営業していることに驚いたが、さらに驚いたことがある。それは店の入口にあるショーケースの中を覗いたら、埃にまみれて、無残なことになっているメニューのサンプルが堂々とあったことだ。それはまるで古代の化石のようで、家に例えると廃屋と言うしかない代物だった。

 「この店大丈夫か!?」と一瞬入るのをためらったが、駐車場には3,4台車が停まっていた。どうする?と思わず義姉のミチコさんと顔を見合わせて無言で相談したが、お客さんがこれだけ入っているのだから問題ないだろうと判断した。さて、そこの店でコーヒーとミックスサンドイッチを注文したが、コーヒーの味はいつもの店と比べるとやはり落ちていた。それにサンドイッチに入っているハムもキュウリも天文学的に薄くて、よくこれだけ薄く切れるものだとある意味感心したのだった。

mikonacolon