人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

回転ずし

今いる店があの噂の店だと知って仰天

 帰省して、お気に入りの喫茶店でモーニングを食べているとき、義姉のミチコさんがこう提案した。「お昼はどうしようか。こう暑くては、何もやりたくないから、どこかに食べに行こうか」と。それで、回転ずしに行くことにした。実を言うと、喫茶店の隣りにちゃんと大手有名チェーンの店があり、駐車場は満杯だった。でも、ミチコさんはそこの店はあまり好きではないらしく、いつもは隣県にある他の店に食べに行っていた。なぜ、わざわざ遠いところに好き好んでいくのかと疑問に思ったが、よく考えたら家からの距離はどちらもたいして変わらなかった。

 さて、駐車場に車を停めて、店に入ろうとすると、中で大勢の人が順番を待っているのが見えた。ああ、混んでる、これは待たされるなあと一瞬そう思った。だが実際は店に設置されているパネルで受付をすると、すぐに番号を呼ばれた。あれ、どういうこと?と怪訝に思っていると、カウンター席に案内された。三つの席の番号を指定され、二人で自由に使ってもいいと言うことなので、真ん中の席にバッグを置いて座った。よく周りを見てみると、カウンター席は十分余裕があった。要するに、家族やグループの人が利用するボックス席は混んでいて、すぐには空かないだけのことだった。

 回転寿しと言えば、コロナ禍になってから、さっぱりご無沙汰で、ほとんど行っていなかった。お茶の入れ方にしても、注文パネルの操作方法一つにしても、戸惑うことばかりだった。そんな私とは違って、ミチコさんはとても慣れていて、頼もしい限りだ。次から次へと注文し、ミチコさんの前にはずらっと皿が並んだ。私はと言えば、いの一番に注文した焼きアナゴを食べて、次は何にしようかとパネルを見ながら思案していた。すると、ミチコさんが小声で何やら囁いた。ここの店は少し前に問題になった、あの店なのよ、確かそんな趣旨のことだった。ええ~!?それって、まさか、SNSで、不適切な動画が拡散された、正真正銘のあの店なの?と聞き返すと、そうだよと言う。

 でも、そんな店は、そんなふざけた従業員がいる店は客からそっぽを向かれるのがおちなのではないか、それが当然の報いではないのかとばかり思っていたが、現実はそうではなかった。ミチコさんによると、やはり、当時は店から客の姿は消えた。でも現在ではほとぼりが冷めたのか、そんなことは皆忘れたのか、以前の人気を取り戻しつつあるようだ。それに、最近の新聞に会社との和解が成立したと報じられていて、ひとまずこの件は終わったと考えていい。この件について、ミチコさんにどう思っているのか、聞くのをついつい忘れてしまった。それと言うのも、まさかの出来事に驚き、とやかく言うことが憚られたからだ。

 おそらく、ミチコさんの性格では、徹底的に白黒つけて、バッサリ切り捨てるようなことはしないだろう。あれは単なるハプニングと捉えているのだろうか。かくいう私と言えば、ミチコさんに真実を聞かされても、それで、ショックを受けて、お寿司を食べるのをやめるわけでもなかった。それどころか、ミチコさんの言葉はまさに馬耳東風で、何ら私の行動に影響を及ぼさなかった。きっと、あの事件は私の中ではもう過去のものになっていて、今更蒸し返すまでもないという位置づけなのだ。気持ち悪いとか、許せいないとかいう、不快感のカケラも抱くことなく、食事を終えて店を出た。今にして思えば、甚だ問題意識に欠けていたのは明かだが、本当のところそうなのだからどうしようもない。

 あのニュースで話題になった店は、当たり前のことだが、信じられないくらい普通だった。店員さんも親切で、ミチコさんの一言が無かったら、分からずじまいだった。安易に想像すると、映画やドラマでは世間のバッシングを受けて、閑古鳥が鳴き、ついには閉店に追い込まれるなどと言う筋書きになる。だが現実は、小説より奇なりだった。

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