人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ジョージ・オーウェルの動物農場

読み終わったら、豚と人間の区別がつかなくなって

 この本『動物農場』を知ったのは、ある日の新聞に載っていた凄惨な殺人事件についての記事だった。家で寝ていた女子大生は面識のない強盗に殺された。前途洋々だった若い女性の命があっけなく奪われたこともあって、在籍していた大学の教授がインタビューに応じていた。その中で彼は「彼女の愛読書はジョージ・オーウェル動物農場で、社会問題に関心があった」と答えていたのだ。それで私はこの聞いたこともない「動物農場」がいったいどういう本なのか、知りたくて堪らなくなった。

 近所の本屋にあるわけはない、とハナから諦めた私は歩いて30分ほどの中規模書店に飛び込んだ。一応検索機で探すと、ヒットし、岩波文庫で在庫もあると出た。文庫の棚に行くと「動物農場」はあったが、その隣には単行本も置いてあった。中身をパラパラ捲ると、豚や馬、犬、ガチョウ等のイラストがやたらと目に入ってきた。特に主役の豚の絵がリアルすぎて思わず本を閉じてしまった。その本の価格は2千円で、確かに豪華版だが、買う気にはならない。どう見ても動物のイラストは要らないので720円の文庫の方をレジに持って行った。単行本の帯にはたしか「どうして豚は独裁者になったのか?」と書かれていた。

 「動物農場」は、動物たちがクーデターを起こして、農場の経営者を追い出し、自分たちの理想とする農場を作ろうとする物語だ。人間に搾取され、酷い扱いに耐えかねた動物たちが自由と安心できる生活環境を求めて立ち上がったのだ。そのクーデターのリーダーはなぜか豚で、その理由は動物たちの中で一番頭がいいのが豚だったからだ。人間の当方としては、なぜ豚なのかは理解できないのだが、動物たちにとってはそれが常識だった。どうやら動物の中にも頭がいい動物と、あたまが弱い動物とがいるらしく、これって差別ではないかと指摘したくなるが、それは差別ではなくて真実なのだ。

 そのことは動物たちが暴動を起こす前から、普段の生活の中で記憶力の有無は分かり切っていたのだ。リーダーである豚は差別のない平等な社会を作ろうと皆に呼びかけるが、時が経つにつれて、その信念が崩れ始めて悲劇が起こる。最初のうちは豚を中心にして動物農場は滞りなく運営され、社会の規律として彼らが守るべき”七戒”を作った。

1,二本足は敵

2,四本足と羽毛は友だち

3,洋服は着ない

4,ベッドでは寝ない

5.酒を飲むべからず

6,決して動物は殺さない

7,我々は皆平等である

 以上のような戒律を作って、自分たちの社会を維持しようとしたのにも関わらず、皮肉なことに一番最初にこれらを破ったのはリーダである豚たちだった。それを許したのは、豚たちが他の動物と比べて頭がいいから、自分たちが少しくらいいい思いをして当然という傲慢な考え方からだった。動物たちに避難されると、豚たちは自分たちは特権階級なのだからと彼らを納得させて、黙らせた。彼らは豚に盾突く勇気などないので陰で文句をダラダラいうだけで、すぐに忘れてしまうのだ。やがて、独裁者の豚たちだけがいい暮らし、つまり、この頃はあれほど嫌っていた人間の家に住んで、高級な服を身に着け、酒を飲んだり、あるいは人間とパーティーを開いて贅沢の限りを尽くしていた。その一方で、他の動物たちは長時間労働を強いられ、もう今では人間が経営者だった時と比べて、今の暮らしが良くなったのか、悪くなったのかさえ分からなかった。彼らにとってはもうそんなことはどうでもよかったのだ。

 この小説を読むと、ユートピアのような皆が平等で幸せな社会なんて実現できるのかと疑問に思う。欲望は人間だけのものかと思ったら、動物の豚がひとたび能力と意志を持ったら、人間をはるかに凌ぐことになると気が付いた。理性というものを持たない豚は彼に死が訪れない限り誰にも止められないのだ。

mikonacolon