人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

スーパーの総菜売り場で働く

今週のお題「やったことがあるアルバイト」

好奇心からスーパーの裏側が知りたくて

 昔、スーパーの総菜売り場のお弁当やおかずが、いったいどのようにして作られているのか、そのことに興味津々だった。それで、その秘密がどうしても知りたくて、好奇心からアルバイトに応募した。仕事は品出しとか他にもあったが、もちろん、総菜づくりの補助を希望して、採用された。アルバイト募集の貼り紙には、確かに「料理補助」と書かれてあったが、なんのことはない、調理専属で、からあげやコロッケや魚のフライを揚げるのは言うまでもなく、巻きずしも作らなければならない。時給1200円ともなれば、お手伝いの領域をはるかに超えた存在になることを暗に期待されていたのだ。浅薄で察しの悪い私はそんなことは考えも及ばなかった。軽い好奇心から、周りの空気など読まずに突き進んでいた。だからこそひどいしっぺ返しを食らったのだが、大いに社会勉強にもなった。それに、スーパーの総菜売り場に並んでいるお惣菜の正体を知ることができたので大いに満足している。

 働き始めたそのスーパーの総菜売り場では、新人がまず初めにすることは天ぷらを揚げることだった。店長に「うちは最初から実際にやってもらう」というのが方針だからと説明され、なんと、初日から”素人”の私の天ぷらが商品となって、売り場に並んだ。自分のどう見ても失敗作としか思えない作品が、堂々と陳列されることに仰天した。恥ずかしいやら、申し訳ないやら、何とも複雑な気持ちだが、周りの人は何も言わない。不器用な私を指導してくれた惣菜チームの小林さんは、フィリピンの人だが、旦那さんは日本人なので、日本語はペラペラだった。その小林さんが本当に親切で優しかったので,当初は続けられそうだと錯覚してしまった。

 私の仕事は、毎日、さつまいも5枚、かぼちゃ5枚、かき揚げ10個、エビ10尾、アナゴ2匹の天ぷらを揚げることだった。面白いと思ったのは、店に並んでいるあの円いかき揚げにはちゃんと型があって、小麦粉と野菜、エビなどを混ぜ合わせたどろどろの状態の物を流し込み、油で揚げれば、立派なかき揚げが出来上がることだ。これなら初心者の私は言うまでもなく、誰にでも、どこに出しても恥ずかしくない商品が出来上がるというわけだ。ただ、エビの天ぷらはそのまま揚げただけでは何とも見栄えが悪いので、衣に花を咲かせなければならない。小林さんは器用に、いとも簡単にやって見せてくれるのだが、悲しいかな、私にはうまくできない。が、できないなりになんとかボリュームを持たせて、エビの天ぷらを実物よりも大きく見せようとした。

 もちろん、家に帰ってからも練習したのだが、”ローマは一日にして成らず”でそう簡単に上達するわけもない。ただ、一カ月が過ぎると、何とか体裁だけは取り繕うことはできたので、勝手に自己満足していたら、ある日、冷や水を浴びせられるような出来事が起こった。その日の朝いつものように仕事を始めようとしていたら、惣菜チームのリーダーの浅田さんが私の方に近づいてきた。何事かと思ったら、「今日は天丼のお弁当の注文が入ったので、材料をいつもの2倍にして」と言われてしまった。さらに「お昼までにお願いね」などと無理難題を突き付けられた。困った、だが、「できません」とも言えないので、とにかくやるしかない。こういう時はギアをあげて、いつもの倍のスピードで作業をすべきなのだが、そんな芸当が私にできるわけもない。

 急がなければならないのに、全くはかどらない私に、「何やってるのよ」と憤懣やるかたない様子。とても見ていられないのか、慣れた手つきでエビの背ワタを取り、小麦粉を付け始めた。なんとか時間内に注文の天ぷらは間に合ったが、その後散々文句を言われて、私は自己嫌悪に陥り、穴があったら入りたくなった。好奇心だけでこのアルバイトに応募したが、この時初めて気が付いた。要するに、時間内に与えられた仕事をきちんとこなすことはもちろんだが、時には臨機応変に立ち回る能力も持ち合わせていないと役には立たないということに。明らかに私には仕事をこなすスピードが足りなかった。スピードというものは場数を踏めば自然と身につくものなのだろうか。その答えを見つける前に、さっさと見切りをつけて、しっぽを巻いて逃げ出してしまった。

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