人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

セミの抜け殻

植木に何かがへばりついていた、それはセミの抜け殻

 実家に行くと、必ず朝はお気に入りの喫茶店のモーニングを食べることにしている。本当なら、ご飯にみそ汁と何かおかずを食べたいのはやまやまだが、ミチコさんの負担を考えるとそうもいかない。だいたいが自分がめんどくさがりなので、他人にもできるだけラクチンなようにしたいだけなのだ。ただ、問題なのは、それぞれの生活習慣によって、微妙なずれが生じてしまうことだ。夜型のミチコさんは、いつも朝10時頃にならないと空腹を感じない。一方の私は朝早く起きるので当然のように8時頃には何かを食べたくてどうしようもなくなる。「ねえ、お腹空かないの?」と不思議がる私にミチコさんは平然と「全然!」と余裕で言うので仰天した。

 ミチコさんによると、年を取るともう若い頃のように無性に何かが食べたくなることはないそうだ。一緒にお盆の何日かを過ごしてわかったのだが、以前と比べると驚くほど食べる量が少ない。逆に私は食べても食べてもお腹が空いてしまうので、「さっき食べたばかりじゃない!?」とミチコさんに呆れられてしまう。毎回楽しみにしているカフェのモーニングはミニサラダ、スペインオムレツ、3種のサンドイッチのセットだった。それが運ばれてくるのを見て、いつも今日こそはお替りをしてやろうと思うのだが、まだ実行には至っていない。すぐに満腹になってしまうので、後からすぐお腹が空くわけだ。

 その日は月曜日だったので、店内には誰も気にしていないようだがピアノの生演奏が流れていた。どこかで聞いた気がするのに、曲名がすぐには思い出せなかった。でも、そのうちの一曲はリチャード・ギアの『愛と青春の旅立ち』だとわかった。この店は人気店なので、お客さんが次々にやって来るせいか、入口には順番待ちの列ができている。それでも、店内が広いので、早く食べて帰らなきゃというような圧を感じさせないところがまたいい。

 ミチコさんと話に夢中になり、誰かを待たせていることなどすっかり忘れていた。後ろめたさなど微塵も感じることなく、満足感一杯で店の外に出た。駐車場に止めてあるホンダのFITのところまで行こうとしたら、植木の葉っぱに何かが引っ掛かっているのが見えた。緑の中にあるなんだか得体のしれない薄茶色の物体は一体何なのだろう。気になったので、近づいて確かめてみたら、それはなんとセミの抜け殻だった。一匹だけかと思ったら、あちらこちらに居て、何匹もの集団でぶら下がっているのもあったので仰天した。さらに木の下を見たら、辺り一面にセミの抜け殻が落ちていたので二度ビックリした。暗くて狭い地面の中で脱皮の時を待っていたのだろう。だとしたら、この木の根元はセミの幼虫で満員のはずで、これほどセミに好かれる木の名前が知りたくなった。木の葉っぱを見てみると、小さくて丸い形をしていて、普段はあまり見かけない種類だった。セミの抜け殻が売るほどあるが、では肝心のセミはいないのかと疑問に思ったら、捜す間までもなく目の前にちゃんと居た。まるっきり警戒心ゼロのセミだった。

 知りたがり屋の私はネットで検索し、”セミが好きな木”というものが果たしてあるのかどうかを探そうとした。その結果は残念ながらわからずじまいで、セミの生態は謎だらけだ。いずれにせよ、今回はお気に入りの店とセミが予想外に結びついたわけで、何事も観察眼さえあれば、こんな面白い発見があることが分かった。もしも私が今小学生だったら、あれこそが自由研究のネタになるのと痛感する。だが、残念なことにあの店で子供にお目にかかることは滅多にない。普通の大人なら、セミの抜け殻があんなに大量にあったら気持ち悪いだろうが、子どもはその目をランランと輝かせるに違いないのに。

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