人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

喫茶アネモネ

▲先週金曜日の新聞に掲載された「喫茶アネモネ

金曜日が待ちどおしくなる漫画

 毎週金曜日の朝刊には柘植文さんの漫画「喫茶アネモネ」が載っている。私はこの漫画が大好きだが、田舎で同じ新聞を取っている義姉のミチコさんは「絵が汚いから嫌い!」とつれないことを言う。だから私はこの漫画は絵柄がどうのこうの言う問題ではない。絵よりもむしろネタというかストーリーで成り立っているのだと反論せずにはいられない。まあ、そんなことを言ったところで、ミチコさんはこの漫画の渋すぎる絵を見て、到底受け容れられないと感じている。見た目が綺麗で可愛い絵が好きだから仕方ないか。残念だなあ、初対面の印象が悪いからと言って、拒否されてしまうのは。チラッとでも読んでもらえれば、この漫画の良さがわかってファンになって貰えるのに。

 5月の下旬から新聞を取り始めて、今までで一番印象に残った「喫茶アネモネ」の漫画はこんな話だ。ある日、いつものようにアネモネの店の扉がカラカラカーンとなってお客さんがひとり入ってきた。すると、マスターとバイトの女の子のよっちゃんはクラッカーを景気よく鳴らし、「おめでとうございます!」とお客さんを出迎えた。だが、その女性のお客さんは、いったい何が起こったかわからず戸惑っている。すかさず、二人は「あなたは当店アネモネの30万人目ぐらいのお客様です」と説明する。ええ~!?普通は”ぐらい”だなんて付けないのになあ、とここでクスッと笑える。”ぐらい”だなんて、あまりにも適当でアバウトすぎるが、本当のところはお客さんの数なんてカウントしていたわけではないのが見え見えだ。それなのに、「祝!30万人目ぐらいのお客様 喫茶アネモネ一同」と書いた記念の派手なプラカードまで用意していた。

 そして、よっちゃんが「これはマスターの奥様からの手作りクッキーです」とニコニコしながら、クッキーが盛られた籠を渡そうとした。ところがお客さんは「そう言うのいいですから」とつれないことを言って受け取らない。こういう場合って普通はその場の雰囲気に流されて、思わず「ありがとうございます」とかなんとか言って、ついつい受け取ってしまいそうだ。だが、このお客さんのポリシーは揺るがなかった。よっちゃんは少し拍子抜けしたことなど、気にする様子もなく、「今日はお客様の好きなもの全部無料で提供いたします」と笑顔満開でサービス精神旺盛だ。

 だが、お客さんの反応は「コーヒーだけでいいです」で、マスターとよっちゃんの善意は届かない。彼らの顔が少し曇ったのを気にしてか、その人は「今日はたまたま用事があって急いでいるんで」と言い訳をした。それではと、「では、記念写真だけでも・・・」と言って、カメラを向けると「やめてください!」と拒まれた。理由は「写真は困ります、SNSにでも載せられたら困ります」だそうだ。そうか、今どきの世の中はそこまで警戒しなければならないのだ。昔のように気軽にいそいそと写真撮影に応じるわけにもいかないのか。世知辛い世の中になったものだ。

 マスターとよっちゃんの計画はすべて徒労に終わった。だが、考えてみると、すべて「そんなこと、あるある」と頷けるシチュエーションである。本当なら、お客さんが”30万人目ぐらい”という栄誉を喜び、アネモネのメニューの数々をたらふく飲んで食べてお腹いっぱいになって満足して帰って行くはずだった。なのに当のお客さんときたら、喜ぶどころか迷惑としか思わないのか。と思ったら、それは勘違いだった。

 お客さんはさっさとコーヒーを飲み干して帰ろうとした。ふと見ると、「祝、30万人目ぐらいのお客様」と書かれているあの大きなプラカードを抱えていた。不思議に思ったよっちゃんは「あのう、それはお持ち帰りにならなくてもけっこうですよ」とやんわりと言ってあげた。すると、何とお客さんは意外な発言をしたのだ。「いいえ、これだけは貰って帰ります。こんなこと滅多にないのだから、いい記念になります」だなんて。これには「ええ!?そっちなの?」と仰天した。お客さんはほんの少し普通の人と価値観がずれているだけで本当は喜んでいた。ただ、そのずれを考えると自然と笑えてくる。

 

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