コロナになった、と気軽に言えるように
今年のお盆は普通なら去年亡くなった叔母の家に行くはずった。一周忌の法要が行われることになっていて、実家に黒のスーツと靴を宅急便で送った。だが、そのすぐ後で義姉のミチコさんから法事が２８日に延期になったと連絡が来た。その理由は叔母の長男がコロナに罹ったためだった。長男の嫁からの連絡も何の躊躇なく堂々としていて、まあ仕方ないでしょうという感じだった。ミチコさんは自分の周りではまだ感染したと言う話は聞いたこともないので仰天したが、そんなことはおくびにも出さなかった。それくらい誰もがなっても、以前のように白い目で見られることなどない病気になったことに驚かざるを得ない。皆がなれば何も怖くないのだろうか、もちろん誰だってかかりたくはない。だがなったとしてもそれがどうしたと言うのか、とお天道様の下で主張していいのだ。
コロナ禍になってから早３年目ともなると、もはやコロナはインフルエンザ並みの病気になったのだと痛感する。以前新聞に載っていた感染症の専門家のコロナについての見解は正しかった。今後はインフルエンザ並みの感染症に変わっていき、毎年予防接種を受けるようになると予想していた。コロナとインフルエンザを同等に扱うことに今でも違和感を抱かずにはいられないが、残念なことに、人間はそんなに長い間極度の緊張に耐えられない生き物だ。インフルエンザが流行っているからと言って帰省や旅行を止める人などいないように、皆が行くのだから大丈夫と自分の都合のいいように考えて行動してしまうのだ。
だが実際は心の中では多少は気にしながらも、最悪の事態を考えないようなふりをしている。少なくとも、私は。それでも、以前と同様に自由に行動するなんてことは恐ろしくてできなくて、コロナの呪縛から逃れられないでいるのが現実だ。では、いっそのこと自分が罹ってしまえば、コロナに対する恐怖心は消えるのだろうか。最近コロナに罹った人は皆「大したことなかったですよ」などとすっきりした顔で宣う。私にはそれが信じられなくて、苦笑いするしかない。私が通っている歯科医院ではコロナに罹った者同士で、先生と患者さんが世間話で盛り上がっていた。となると、”皆で罹れば何も怖くない”のだろうか。
先の話だが、叔母の長男がコロナに感染したと思ったら、長女の夫も感染したらしい。しかも二人共いったい、いつ、どこで感染したのか、どう考えても分からないのだと言う。現在のコロナはそれくらい身近で、誰が罹ってもおかしくない病気になってしまっているのだ。ワクチンのせいなのかどうかは定かではないが、幸い二人共苦しい思いはしないで済んだらしい。熱が３９度あったらしいが、世間で言われている軽症の部類だった。だが、新聞の投稿欄を見ると、コロナに罹った当事者から「市の発熱センターに電話してもいっこうに通じない」とか「病院に行ったが断られた」とかの窮状を訴える声が多く寄せられている。
そんな悲惨なイメージしか頭にない私は、親戚のコロナ患者の話を聞いて拍子抜けした。どうやらコロナに罹ったとしても、その症状には、今流行りの”格差”というものが存在するらしい。それは運がいいのか、日頃の行いが関係しているのか、一概には言えない。いずれにせよ、私たちは運を天に任せて、運命を受け入れるしかない。となると、勇気をもって一歩を踏み出す、例えば、海外旅行におっかなびっくりでもいいから行ってみるとかを実行に移すことも可能だ。だが、やはり、心が動かないし、頭が納得しないのでゴーサインを出さない。だから今の時点ではじっと待つしかない、感染が収まって以前の状況に戻るまで。それがいつになるかは分からないが、不透明な霧が立ち込める中で待つのみだ。
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