人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

塾講師の男性は重厚ボイス

最初はお断り、でも一転、すぐに承諾!

 『家ついて行っていいですか』というテレビ番組がある。「ここに出てくる人は皆とてもやさしい人なんだと思う」と朝日新聞のエッセイに書いていたのは清水ミチコさんだ。帰省して、偶然見たこの番組で、まさしくそんな男性に出会った。一般的に、マイクを向けると、誰もが「いつも楽しく見ています」と笑顔で答えてくれる。だが、「家ついて行っていいですか」と問いかけると、一転、『ウチ?いやあ~、悪いけどうちはダメなんだよ」と断られるのが落ちなのだ。たまに本人は大いに歓迎してくれるが、奥さんに電話をかけて許可を取ろうとすると、決まって断られてしまう。

 でも、彼は違った。彼はメガネをかけて、一見まじめそうな28歳の青年で、なんだか冷たそうな感じがした。スタッフがすぐに彼の声が低くてとてもいい声なのに気づく。「いい声ですね」と褒めると、「よく言われます」と屈託なく笑う。彼はどう見ても、どこかの会社のサラリーマンに違いないと思ったら、なんとすぐ近くにある塾の講師だった。ふ~ん、そうとわかると、なんだか知的な雰囲気が漂ってくるから不思議だ。外見とは違って、とてもフレンドリーで好感が持てたが、スタッフが、「タクシー代をお支払いしますので、家ついて行っていいですか」とお願いすると、「うちは今ダメなんです」と言うので見ているこちらもがっくりきた。

 ところが、信じられないことに、彼はすぐに戻ってきて、「家ついて行っていいですか」に同意したのだ。ありえない、一度断わったのに、考え直して承諾してくれたのは彼ぐらいだ。なぜ、考え直したのか尋ねると、「実は今親が旅行に行っていて、僕一人なんですよ。それで、親の留守中に人を入れるのはちょっとまずいかとも思ったんです。でも、いないのだから関係ないかと思って・・・」などとその理由を説明してくれる。でも、ちょっと待って、もしも両親に留守中に自分の家がテレビに出たことが分かったら、勝手なことをしてと、大目玉を食らうのではと、他人事ながら気を揉んでしまう。要するに、それでも構わないと判断したようで、彼は特に気にしていないようだった。その点において、彼には断る自由もあったし、また一度は断ったのに撤回したのは、清水ミチコさんが指摘していた、人の良さ、というか優しさと言っていいだろう。

 今回気付いたのは、この『家ついて行っていいですか』という番組では、「冷蔵庫の中を見せてもらってもいいですか」というお願いをすることだった。今回の彼も、躊躇することなく、冷蔵庫を開けて、母親が作ったカレーや、煮物のタッパーに言及していた。「留守にするときは、僕のためにちゃんと総菜を用意してくれているんです。とてもありがたいです」と母親への感謝を口にしていた。さらに、彼はスタッフが要請しなくても、自分の部屋はもちろん、父親の書斎までも見せてくれる。そんなに見せて大丈夫とこちらがハラハラするほど、サービス精神旺盛なのだ。

 スタッフが「塾講師の給料っておいくらなんですか」と尋ねると、帰ってきた答えは「9万円です」だった。塾講師だから、知的な職業だから、もっと貰っていると思ったのに意外と安い。さらに、「ちなみに、今実家を出る計画ってあるんですか」と畳みかけると、「あります」と即答。まずは、教員免許を取って、どこかの高校の教師になって、独立することが目標だと言う。早稲田大卒というから、頭はいいのだから十分可能性はある。それに彼は人に対して優しい人だから、教師は天職ではないだろうか。

 それから、彼は以前インドに行った時の写真を見せてくれる。それが全部自分の顔の自撮り写真なのに閉口したが、彼なりに思うところがあったのだろう。世間的には親と一緒に広い豪邸に住み、何の不自由もなく暮しているように見える彼だが、その中身はなかなか興味深かった。

mikonacolon