人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

クリームシチュー

それは野本さんの春日さんへの優しさ

 この頃、私はNHKの夜ドラ『作りたい女と食べたい女』に嵌っている。たった15分ではあるけれど、民放と違ってCMがない分、とても長く感じられる。ちょこっとだけ見たい私にはちょうど良い長さで、ある意味とてもいい気分転換になる。先日はいきなりの展開に面食らった。春日さんが、「私は、実家の親とは縁を切るつもりです」と野本さんに宣言したからだ。春日さんの母親が祖母の介護で大変らしく、父親が娘に助けを求めた。だが、その娘は実家に居場所がないと感じていて、「あそこでは私は私としては生きられない」と拒絶反応が全開だった。取引先のスーパーで、店員の中年女性が介護で疲れている様子を目の当たりにして、春日さんは思うところがあるようだ。

 自分の母親と同じくらいのその人に、「できるだけ自分らしく生きてください」としか言えない春日さん。でも、その時春日さんは自分がどうしたいか決めていた。それは自分の心に正直に生きるということで、「実家は私にとって安心できない場所でしかない」と判断し、なんと実家とは縁を切るという”暴挙”に出たのだ。「わたしって、冷たい人間だと思いますか」と尋ねる春日さんに、野本さんは「そんなことないよ」と共感する。春日さんが子供の頃から抱えて来た苦しみがわかるだけに、世間によくある、ステレオタイプな反応はできるわけもない。普通に考えると、親と縁を切るだなんて、とても恐ろしくてできない。なんといっても親は何かあったら、一番に頼る砦のような存在だったから。

 こうなると、もう一般の”家族”というイメージを超えた世界で物を考えなくてはならない。だいたいが家族に正解などなく、それぞれが少なからず悩みを抱えているものだ。その家に生まれたからには、昨今は”親ガチャ”だなんて言葉もあるが、全て運命で目の前にある生活を受け入れなければならない。幸か不幸か、私の家は春日さんが育ったような家庭ではなかったので、春日さんの実家の話は青天の霹靂だった。何処か、別の世界の話で、疑いたくもなるが、まあ、ドラマだから、そんなこともあるぐらいだろうと傍観していた。だが、実家と縁を切るという重大な決断をいきなり切り出す春日さんに「おい、おい、そんなに軽々しく口に出して、大丈夫?」と危く感じてしまったことも確かだ。春日さんの思考回路と言うか、理屈は間違っていない。だが、人間には情というものがあり、そう簡単に割り切れなくて、実に厄介だ。父親が電話の向こうから、「お前には親子の情ってものがないのか」と娘に怒りを投げつける。それでも、春日さんは全く揺らがないように見えたが、その動揺は野本さんの前で一気に溢れだす。

 自分が下した決断に後悔はしていないが、やはり一抹の不安は隠せない。そんな春日さんに、野本さんが作ってあげたのがクリームシチューだった。野本さんは市販されているルーを使わず、自分でホワイトソースを作る。たちまち、フライパンの中に気持ちいいほどとろとろのソースが出来上がる。いいなあ、私もあんなソースが作れたらなあと、うっとりと映像を眺める。だいぶ昔、ホワイトソースに挑戦したことはあるにはあるが、敢え無く失敗に終わった。それ以来、作る気にもならず、パンドラの箱を開けるるだなんていう勇気はない。CMでやっている”アレ”でいいじゃないの、簡単で、とは思うものの、いかんせん、あれは味が塩辛すぎて、すぐに飽きがくる。私は濃い味付けが苦手で、もっと沢山食べたいのに、食べられないというジレンマにかられる。

 クリームシチューで思い出すのは、以前、会社の同僚が「昨日作りすぎてしまって、もったいないから」と持ってきてくれた本格的なクリームシチューだ。昼休みに皆でご相伴に預かったが、いつも食べているシチューとは一線を画した優しい味だった。塩味がきつ過ぎないので、飽きがこない。とは言え、皆で食べる量には限りがあり、もっと食べたいなあ、という絶妙なタイミングで試食タイムは終わった。

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