人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

もっと『作りたい女と食べたい女』

二人の今後がどうなるのか興味津々

 毎日楽しみに見ていたNHKの夜ドラマ『作りたい女と食べたい女』がとうとう最終回を迎えてしまった。8回で終わりで、正直もっとあのドラマの世界に浸っていたかった。帰省すると親が結婚とか何やかやで圧力をかけてくるので、「気が進まないから」と野本さんは年末年始を帰らないで過ごすことにした。一方の春日さんも実家の封建的な雰囲気にどうしても馴染めずにいて、ここ10年ほどは全く帰っていなかった。子供の頃から、家族の中でも男は女より優位に立ち、食べることにおいてもそれは変わらず、弟のおかずは姉の自分よりも多めだった。本当は自分はもっと食べたかったのに、それを言い出せない空気が家庭内に張り詰めていた。「なぜ女の自分はお腹いっぱい食べられないのだろう」女だからというだけで我慢を強いられるのは納得いかなかった。

 そのせいか、春日さんの部屋にある冷蔵庫は普通の家庭にあるようなタイプで、野本さんのいかにも一人暮らし用のそれと比べるとはるかに大きい。野本さんのは私が一目見て、「ちっちゃ!?」と溜息をつくほどで、「料理好きなのにこんなんでいいの?」と不思議でたまらなかった。春日さんは実家にいたときの鬱憤を晴らすかのように食べに食べる。またその食べっぷりが勇ましく、気持ちいいくらいで圧倒される。底なしの胃袋の持ち主なのだろうか。野本さんはそんな春日さんのハンサムな姿に一目ぼれをしたようだ。まさにこの人が私が長い間探していた人!?でその人は今自分の目の前に居るのだ。夢のような話だが、紛れもない現実だったので、野本さんは感激し舞い上がった。

 ドラマでは野本さんの気持ちだけしか描かれてはいないが、春日さんも野本さんに好意を抱いているのは間違いない。ただ、春日さんの野本さんに対する好きという気持ちは友情なのか、あるいは恋愛感情なのかはわからない。いや別に友情でもいいのだが、それに普通は「なんだか一緒に居て楽しい人」ぐらいの軽い関係で十分なのだ。野本さんは「春日さんが私をどう思っているかは分からないが、できればこのままずうっと一緒に楽しく過ごせたらどんなにいいか」と思っている。

 問題は当の春日さんがその行動から気持ちを読むのが難しい人だということだ。春日さんは信じられないほど、自分の感情を表に出さない人だ。いつも冷静で、落ち着いていて、しかも滅多に笑わない。野本さんの作った大量の料理をペロリと平らげて、「ご馳走様でした。美味しかったです」という瞬間もその顔には幸福の絶頂感というものが感じられない。いや、そんなことはなくて、心の中では至福の時を堪能しているはずなのだ。表情に出さないだけで、春日さんは満足感に浸っているのだと私にはわかる。

 野本さんの部屋を立ち去るとき、春日さんは必ず「今日は楽しかったです」と淡々とした挨拶のように言う。その言葉には気持ちがこもっていないかのように聞こえる。だが、野本さんがある日熱を出して「すみませんけど、明日の約束はキャンセルさせてください」とメールした時の春日さんの行動には感激してしまった。「ゆっくり休んでください」という返信は普通だが、その後「何かできることがあったら言ってください。何でもいいですから遠慮なく」と優しい気遣いをしてくれる。お言葉に甘えて野本さんが用事を頼むと、解熱剤やポカリスエットだけでなく、ヨーグルトやプリンなどの口当たりがいいものまで買ってきてくれる。さらには「そろそろ別の味が食べたくなるころだと思うので・・・」と気を利かせて、鍋焼きうどんを作ってくれたりもする。

 誰も皆頭の中でやってあげたいと思ってはいるが現実にはなかなかできないことを、これくらい当然ですと言わんばかりにやってしまえる春日さんに脱帽した。春日さんはその表情ではなく、自らの行動で野本さんに対する気持ちを表現していた。野本さんは春日さんの優しさに感激し、より一層好きという気持ちを加速させたことは言うまでもない。二人の関係は大きな世界の中での小さな世界での話だが、きわめて濃密な空間で、覗き見している感覚の我々も心地よさを味わっている。

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