人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

離婚しない理由

突然の発言に唖然とする私

 それは本当に偶然かつ、突然の出来事だった。聞き耳を立てていたわけでもなく、気他人に興味を抱いたわけでもないのに、私の目の前で発せられた言葉だった。事の発端は、昨日の夕方帰宅途中の私は、ガードを潜ろうとしていた。すると、そこに自転車をひいた男女がやってきて、私の行く手を阻んだ。内心、自転車に乗ってさっさと行ってくれればいいのにと思いながら、後をついて行った。ガードを潜り終えると、坂道が待っていて、そこでも私は彼らと一緒だった。彼らのうちの男性の方が先に行き、女性は男性の後からついて行った。女性が何やら男性に話し掛けているが、その日本語がよく聞き取れない。そう、女性の方は明かに外国人のようで、日本語があまり上手ではなさそうだ。男性の方はどうなのかは分からなかったが、その後すぐに判明した。

 女性の方が、「私、困る」と何回も言っている。どのような事で困っているのかは、彼女の拙い言葉からはわからないが、男性はちゃんと彼女の言うことを理解していた。男性は、よく見ると髪の毛に白髪が混じっていて、50代ぐらいだろうか。おそらく、二人の関係は夫婦ではなく、職場かなにかの知り合いだと思われた。その時、急に男性が立ち止って、彼女にこういった。「俺が離婚しない理由がわかる?俺は20年間別居していても、離婚しないのは、離れているから、ストレスがないからなんだ」

 突然の発言に驚かされたが、私は立ち止ることなく、彼らの横を通り過ぎた。少し歩いて振り返ってみると、彼らはまだ元の場所に留まっていた。あれから、またどんな話の展開になったのかは、私には知る由もない。どうでもよかった。ただ、あんな道の真ん中で、他人に聞こえるように堂々と発言する人を見るのを初めてだった。男性の発言にはまだ続きがあった。「社長夫婦は仕事もプライベートも一緒でしょう。だからその気持ちがわかる」と女性に同情していた。おそらく、彼女が今直面している「困る」は職場の社長夫婦のことで、どうしたらいいかわからないのだ。

 それにしても、男性の離婚しない理由には驚かされた。別居すれば、離れて暮らせば、それで、結婚はうまくいくものなのだろうか。勝手に想像すると、毎日お互い顔を突き合わせていると、亀裂が生じるから、離れていた方が楽ということなのか。ストレスフリーというのは、全く関わらないと言うことで、相手がいないのも同然で、紙きれ一枚で繋がっている関係ということなのだろうか。ストレスがないなら、離婚しなくてもいいと言う考え方なのだ。そんな形で結婚生活を続けている人がいることに仰天した。それはよくある別居結婚というものとも一線を画している。

 私が偶然出会った男性はやたらと”結婚”に固執していたようだが、私の友人の両親の場合は違った。彼女と知り合った時、彼女は父親とは名字が違っていて、「私は山田だけど、お父さんは木村さんなの」と言った。それを聞いた私は、「ええ~!?いったいどういうこと?」と彼女を問い詰めた。つまり、彼女の両親は法律的に結婚していなくて、それでも、母親は愛人なんかではなくて、正真正銘の正妻なのだ。彼女の話によると、父親はあまり家に帰ってはこないそうで、普段は建設現場の事務所で寝起きしている。クレーンや、ショベルカーなどの重機を操作する仕事をしているのだと自慢していた。学校に入って、皆と自分の家庭が少し違うことに気が付いたが、たいして気にはならなかった。親にどうしてなのと尋ねてみようと思ったこともない。うちはうちで、それが当たり前で、親と名字が違っていても、何ら支障がなかったらしい。

 そんな話を聞いて、そうか、別にそれでもいいんだ、と初めて気づいた。世間でよく言われ、新聞など見かけることが多い“内縁”という夫婦関係は真っ当なものだった。当事者同士がそれでよければ、他人がどうこう言う筋合いなどない。最初はなんだかスキャンダラスだと感じた関係が至極当たり前のように見え始めた。

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