人生は旅

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従業員の不満が爆発

今週のお題「爆発」

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マドリードにあるE. トロッハによるサルスエラ競馬場。NHKまいにちスペイン語テキストから。

日頃の不満がある日突然噴火して、皆で辞めることに

 映画やドラマを見ていると、従業員が雇い主の理不尽な態度や自分たちの不当な待遇に抗議して、一斉に職場をやめてしまう場面が出てきます。でも現実には滅多に起こりえないことだと思っていました。誰もが「もしそんなことができたら、どんなにスッキリするだろう」などと短絡的に考えてしまいます。でも心で思うのと、実際に行動するのとでは雲泥の差があります。それでもやってしまって後悔する方がいいのか、やはり、もっと冷静になったほうがいいのか。でも現実は我慢も限界で、このままでは状況は何一つ変わらないことは誰もが承知しているのです。

 まだ若かった頃、飲食店、と言っても商店街にあるうどん店でアルバイトしていたことがありました。当時その店は1年ほど前に開店し、モチモチの讃岐うどんを売りにしていて、店の女主人は服飾関係の会社の社長夫人でした。以前から食べ物屋をやりたかったようで、自分でやっていた洋装店をうどん店に改装したのでした。要するに素人なのですが、調理場を任せるために雇った従業員の意見を尊重しませんでした。ワンマンで従業員を大事にしなかったので、よく彼らと口げんかをしていました。それでも、「ここのうどんは美味しいね」と言ってくれる常連のお客さんも増えてきて、何事もなく店は続いて行くものだと思っていました。

 調理場には、無口だけど真面目で優しい清(セイ)さん、いつも冗談を言って皆を笑わす山ちゃん、「僕は太っている女性が苦手なんですよ」が口癖の青山さんの3人の従業員がいました。清さんと山ちゃんは料亭とかの色々な場所で板前さんをして経験を積んできた人たちでした。二人とも奥さんと子供が二人いて、特に山ちゃんは自分の奥さんの写真を見せてくれて「美人だろう?」と自慢していました。青山さんは異色の人で若い頃は服飾関係の会社に勤めていましたが、不幸にも潰れてしまったので、急遽飲食関係の仕事に転身したのでした。そのせいかものすごくおしゃれで、180cmを超す長身には何を着てもカッコイイと感じました。「まるでモデルさんみたい」と皆が褒めると、「モデルはもっと痩せてなきゃだめなんだよ」と意外なことを口にしました。

 そして、店のカウンターをひとりで仕切っていたのは皆がアネゴと呼ぶ中年の女性です。お昼のピークのうどん店を口も手も同時に動かして、誰が見ても見事な働きっぷりでした。広島出身で原爆2世だという彼女は身体はがっちりとしてびくともしないように見えたのに、実は身体が弱かったのです。だから、皆から「見掛け倒しだね」と揶揄されていました。彼女はまるで暴走族のリーダーのような風貌で、竹を割ったような性格で皆から好かれていました。店の女主人とも話を合わせて、傍から見たらうまく行っているように見えました。

 ある日の夕方店にアルバイトに行ったら、従業員4人で何やら相談をしていました。何かと思ったら、皆で明日店を辞めるのだと聞かされて仰天してしまいました。思わず「どうしてそんなに急に辞めるの?それに皆が全員辞めちゃったら店が困るでしょう」と思った通りに口に出しました。すると、清さん以外の3人が、こんな非常手段は急に思いついたのではなくて、以前から考えていたと言うのです。つまり、女主人を懲らしめるというか、自分の態度を少し反省させるためなのだと・・・。突然店の従業員が皆辞めてしまったらどんなに困るか思い知らせてやりたいとも言います。

 ストライキではなくて、話し合おうとしても無駄だと判断して「突然辞める」ことを選択したのでした。でも清さんだけは彼らとは違いました。「俺はそんなひどい事はできないよ。大変だけど、俺は残るよ」と店のことを心配しました。翌日、いつも通りに出勤してきた3人は何も知らない女主人に「今日で辞めさせていただきます」と告げました。その時の彼女は信じられないと言ったように目を見開いて声さえ出ませんでした。

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