人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

あんな田舎でエステ?

列車の運転見合わせで、ミチコさんが慌てる

 帰省して、いつもなら何事もなく過ぎるはずが、今回は台風の影響で波乱が起きた。私の滞在が延びることがわかって、義姉のミチコさんは、慌てだした。どうやら何かの予定が入っていたらしいのだが、それがエステの予約だと聞いて仰天した。エステだなんて、知らない人が聞いたら、リッチだとしか思われない。いいご身分だわねえ、と言わんばかりに嫌味を言われてしまいそうだ。だが、ミチコさんの言うエステの予約は少し、意味合いが違う。かくいう私も、内心、ええ~、こんな田舎でエステだなんて、どういうこと?と怪訝に思っていたし、こんなことを言ったら怒られそうだが、どう見てもミチコさんにはエステの効果が微塵も及んでいないのは明かだった。それでも、ミチコさんは、「エステってそんなにいいの?」と尋ねると、「とても気持ちがいいんだわ」とまんざらでもない返事をした。

 私のせいで、ミチコさんはエステの店に電話をかけて、予約のキャンセルをした。それと、一緒に行く友だちにも都合が悪くなったからと連絡を入れ、次の予約の日にちの相談をした。よくよく話を聞いてみると、そのエステの店は家の斜め向かいに住む人の娘さんがやっていて、私も昔、その娘さんが家の前で遊ぶのを見かけたことがあった。その時は、とても可愛い女の子だったと記憶しているが、現在では二人の子供の母親で、何らかの事情で離婚して実家に戻っていた。自立するために、いろいろなことに挑戦したが、どれも上手く行かなかった。だが、一番興味があったエステの学校に通いだしたら、本人も周りもびっくりで、眠っていた才能が開花した。あれよあれよという間に、自分の店を持って独立した。

 店は自分一人でやっているらしく、従業員はいないが、あんな田舎でも立派にやっていることだけでも素晴らしい。最寄りのJRの駅に今後のことを聞きに行った帰りに、ちょうどその店の近くまで来た。ミチコさんが、「ほら、あそこが、あの子の店よ」と言うので見ると、爽やかな水色のこじんまりした店だった。ミチコさんはいつも顔のエステをやって貰うらしく、「あの子は上手だから」と娘さんのことを褒める。もちろん、田舎だから、大都会のようなイメージも料金もあり得ないだろうが、ご近所さんのよしみで、誘われたら断れないのだろう。考えてみれば、年金生活者のミチコさんが行くのだから、そんなに高級なところのわけがないのだ。ただ、悲しいことに、車に乗れないと、何処へも行けないことは否めない。

 考えてみると、今回のエステの話はたまたま列車の運転見合わせや遅れというハプニングがあったからこそ知り得た情報だった。幸か不幸か、私はたいして良く知らないミチコさんの生活の一端を垣間見ることになった。バスで行くサクランボ狩りやシャインマスカット狩り、ブドウ狩りといったアトラクションは容易に想像できたが、まさかエステとは!まさに目から鱗だった。世の中には私などには考えも及ばない楽しみがあることを知った。

 それはさておき、今回地元の喫茶店にモーニングに行って驚いたのは、料金がコロナ前と全く変わっていないと言うことだ。つまり、飲み物の料金の550円が値上げされていないことで、何もかも値上げされてしまった街に住む私には青天の霹靂とも言える現象だ。例えば、コロナ前に通っていたチェーン店のコーヒーショップで、一番安かったのは180円のアンパンだった。だが、今では300円近い値段なのに気づいて、目の玉が飛び出そうになった。思わず、アンパンに伸ばした手を引っ込めて、早々に店を後にした。もはやコーヒーとアンパンで500円程度で済ますことなど不可能だった。思えば、そこに居るための場所代としての500円はまあまあ、自分としては納得できる料金だったのだが、それ以上高くなると考えざるを得ない。好き好んでアンパンを食べていたわけでもなかった。それで、結果的に行かなくなった。信じられないことに、コーヒーショップの代わりに、自分の部屋が安心できて落ち着ける場所に変わったのだ。

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