人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

顔も名前も知らない幽霊家族

新しい家に引っ越してきた住人に困惑

 私の実家の周辺は空き家が多く、更地になってそのままという家も少なくない。当然のごとくいつの間にか新しい家が次々と建っている。それらの家は古くから住んでいる住民にとっては、絶対に住みたくない家であり、その理由は窓がやたらと少なくて日当たりが悪いからだ。そんな家がうちの実家の3軒隣にあるのだが、ちょうどそこの家は角にあって陰になっていて、うちの家からはよく見えない。その家の隣りはかつては村で唯一の食料品店だった。いや、というより日用品もあれやこれやと何でも売っている便利な店だったが、今はヤマザキパンの看板がやたら空しく目立っている。その新しい家は車で出かけるために表に出たとしても、全然視界に入らないので、存在自体を忘れている、と義姉のミチコさんは言っている。庭にある花の手入れや水やりを毎日しているが、見えないので、それは無いのと同じなのだ。普段は全く、その家族のことを気にかける事すらない。

 そんなミチコさんが何かの拍子にふと漏らした。「あそこの家は自治会費を払っていないのに、ゴミだけはきちんと出している」と。事の発端はその家の住人が越してきてまもなく、自治会の役員が会費を徴収するために家を訪ねたことだった。玄関には表札もなく、インターホンで声だけのやり取りだった。自治会費が年間6千円だと言うと、うちはいいですからということだった。つまり、お金を払いたくない、そんなことのためにお金を払うことは到底納得できないと言う理由だった。それに、どうやら近所づきあいなどというめんどくさいことはしたくないと言う考えらしい。だが、ゴミ出しにしたって、ちゃんと当番があり、ゴミ収集車が行った後の掃除だって必要なのだ。

 村には村の行事があり、お祭りの時などには各家庭の子供に法被を貸し出している。その家の子はお祭りに参加できないことになる。そもそもどうしてその家に子供が居るのか、分かったかと言うと、役所の方から連絡が来たからだった。小学生の子供がいるらしいが、それも何人いるのかは定かではないが、村の子供たちは集団登校しているので、それに加わりたいのにさせてもらえないということらしい。おそらく、最初は誰かに聞くこともできないので、何処に集まって登校するのかさえ分からなかったのだろう。それで毎日車で送り迎えしていたらしいが、両親共に仕事を持っているらしく、このままずうっとは続けられない、と思案したのだ。役所に取り合ってもらうように頼んだが、そのようなことは自分たちの話し合いで解決するように言われたらしい。役所の管轄外なのだと相手にされなかったらしい。うちの村は生活していく上ではいろいろと厄介な事や人が多い地域だと、ミチコさんが本音を漏らしたこともあった。家には、猫が二匹居るが、近所の人には猫がいることは内緒にしている。たまに回って来るゴミ当番の日に、家の庭に糞をされたとか、匂いで迷惑しているとかと言った愚痴を黙って聞き流している。

 もちろん、自治会費の支払いは強制ではないが、これから自分が暮らす場所のルールに従うのは、当然のことだと地域住民は思っている。ミチコさんもその一人で、この先ずうっと、”名無しの権兵衛さん”でやっていくつもりなのかと訝しく思っている。ゴミ出しも公共サービスで、お金はいらないから自治会費は関係ないが、それにしたって子供はどうなるのだろう。現在では、新しい家の子供も村の子供たちと一緒に集団登校するようになった。何しろ近所に小学生ぐらいの子供はいないし、一々見張っているわけにもいかないのでその子がどんな子かもわからない。正直言ってあまり興味がないし、どうでもいいと言ってしまえば、どうでもいいことなのだ。

 その一方で、やはり、新しい家の住人に不満を抱く住民がいることも確かなのだ。要するに、彼らは村の人たちとは付き合うつもりはさらさらないけど、ゴミ出しなどのサービスは利用したい人たちだから狡いと言いたいのだ。いわば、”いいとこどり”である。正直言って、あんな小さな村に住んで、都会と変わらない生活を送りたいと考えることに驚きを隠せない。

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