人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

悩ましい金魚すくい

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▲アルゼンチン最北部にあるウマワカ渓谷。NHKまいにちスペイン語テキスト7月号から。

ダメだとわかっていても、金魚すくいをしてしまう

 先日の朝日新聞の4コマ漫画、ののちゃんは金魚がテーマでした。夏祭りか何かで綿あめやら、たこやきやら、やきそばなどの夜店が出ています。そのなかにはもちろん子供に人気の金魚すくいの店もありました。ののちゃんのお母さんのマツコさんが「金魚はダメよ、すぐ死んでしまうから」と娘に言い聞かせています。ののちゃんも「わかってるよ」と金魚は買わないつもりです。それなのにネコを差し出されると、あろうことかおばあさんが「とりあえず、貰っとく」などと言うのです。マツコさんは「なんで金魚がダメなのにネコがええの?」とあきれ果てて、漫画は終わります。

 夏祭りの金魚すくい、私もよくやりました。でもなかなかうまくできずに、いつも残念賞というか、参加賞みたいに金魚2匹を小さなポリ袋に入れてもらって帰りました。店のおじさんがニコニコしながら金魚の袋を差し出すので、まさか「要らない!」だなんて言う子は一人もいませんでした。家に帰るとすぐに金魚鉢に入れて置くのですが、翌朝見ると、2匹のうちの1匹は必ず水面にぷかぷか浮いていました。そのうちもう1匹もすぐに昇天してしまうのです。金魚を飼おうとする前に金魚を眺めただけで、気分が盛り上がったところで「はい、これまで」となるわけです。それでも、性懲りもなく毎年同じことを繰り返すのですから、金魚すくいは子どもにとって魅力的なものらしいのです。「らしい」というのは、大人になってだいぶ擦れてきて、子供心をどこかに置き忘れてしまった現在の私の正直な感想です。

 よく考えてみると、金魚すくいの金魚はみんなに弄ばれて、だいぶ弱っているはずなのです。だからすぐに死んでしまうのは当然なのだと思っていたら、ある時知り合いの家に行って仰天しました。水槽の中で元気よくオレンジ色に光った魚が泳いでいました。「これ見て!金魚すくいの金魚が育ったんだよ」と言うので、思わず我が目を疑いました。どうしたらこんなに大きくなるのだろうと不思議に思い、秘密を知りたくて根掘り葉掘り聞いてみたのです。ところがその答えを聞いてがっかりしました、いつの間にか、知らない間に大きくなっていただなんて。特別なことは何もしなかったので、あくまで偶然の産物で、たまたまで、この金魚は強運の持ち主なのでした。できれば私も子供の頃、一度くらいは魔法の金魚に遭遇したかったなあなどと一瞬妄想に耽ってしまった経験でした。

 大人になって、引っ越した街に昔からやっていた金魚屋さんがありました。子供の頃金魚を死なせてばかりだったので、金魚屋の金魚なら大丈夫だろうと簡単に考えていました。水槽や水草やモーターを買い込んで飼い始めたのですが、これが思ったより難しいのです。金魚というか、生き物は想像以上にデリケートなので、ほったらかしにすれば死んでしまうのでした。最初の情熱が続かなくて、結局は最後の1匹が死んでしまった時にもう飼わないと決めました。どうやら私は生き物を飼うための魔法の杖を持っていないようなのでした。

 その後、金魚屋さんは閉店して壊されて、その場所には立派なマンションが建ちました。そして次々と周りにあった洋菓子店も文房具屋も喫茶店も姿を消したのでした。目の前で起こっている変化に驚き、嘆いても時の流れを止めることはできません。毎年商店街で行われていた夏祭りも開催されなくなりました。夜店を出していた主催者たちが街からいなくなってしまったからです。住宅街がほとんどマンションだらけになってしまったので、人が集まって連携して、何かをやろうという雰囲気にはならないようです。こうなると、今の子供たちにとって「金魚すくい」などと言うものは「それって何?」と言われかねません。それに今はコロナ禍で夏祭りというものはできない状況にあります。このまま行ったら「金魚すくい」は化石のような言葉になるのではと危惧してしまうのです。

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