人生は旅

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朝顔で絵を描く

今週のお題「自由研究」

f:id:mikonacolon:20210808173043j:plain▲北京で開催された氷祭りの彫刻作品。NHKまいにち中国語テキスト1月号から。

朝顔の花が足りなくて、絵が描けなくて困って

 自由研究と聞いて思いだしたのは、もう何年も前の出来事でした。正確に言うとそれは自由研究ではなくて、絶対にやってこなければならない夏休みの宿題でした。当時近所に小学生の子供を持つ知人が住んでいました。その子供の宿題に彼女は頭を悩ませていたのでした。ある日、私はスーパーで彼女を見かけて挨拶をしました。いつもなら少し立ち話をするのに、その時はそんな気分になれないようで、すぐにレジの方に行ってしまいました。それで「あれ、どうしちゃったんだろう?」と戸惑ってしまったのです。どうやら何か悩みを抱えているようでしたが、その時はそれが何かわかりませんでした。気になって聞いてみたい気にもなったのですが、あまりしつこくしても迷惑なだけだと思いやめておきました。

 さて、次の日家の近くで彼女と偶然会いました。そしたら向こうから私に話しかけてきたのです。「朝顔が欲しいんだけど、どこかにないかしら?」と困ったような顔をして言うので、「朝顔?どうしてそんなに朝顔がいるの?」。たしか、朝顔は子供が学校から持って帰ってきたはずなのに、まだ朝顔が欲しいなんてどういうことなのか、どう考えても理解できません。ところが、彼女の話によると、先生から出された宿題は朝顔の観察ではなくて、朝顔の花で絵をかいたり、染め物をすることだったのです。朝顔の花で絵を描くということは、朝顔の花を絞ってその汁を使って絵を描くということだったのです。

 最初子供から聞かされた時は、そんな簡単なことでいいのかと思ったそうです。でもいざ実行に移そうとして、朝顔の鉢を見ると花はたったの2輪でした。今までの人生で花を絞ったことなどありません。とにかく試しにやってみると、思ったほどさっぱり汁は出ないのでした。朝顔の花2輪では到底絵は描けないのだと悟ったのです。やはりもう少し、というよりできるだけたくさん花があった方がいいのです。何が何でも朝顔の花が欲しいのですが、残念ながらご近所には朝顔の花が咲いているお宅は見当たりません。「どうしたらいいのだろう?」と子供よりも母親の彼女の方が悩んで、途方に暮れました。まさか朝顔の花を買ってくるわけにもいかないし、どこかに朝顔がこれでもかと咲いているお宅はないだろうか、と夢のようなことを考えていたらしいのです。

 朝顔がどこかにないだろうか、と相談されてもすぐにはいい考えなど浮かんでは来ません。でも、ふと、朝顔のつるが壁一面に伸びていて、ピンクや紫の花が無数に咲き乱れている光景をどこかで見た気がしたのです。思いだしました、それは都心に行くときに通る道でいつも「なんて美しいんだろう!」と感じていた景色でした。そこは駐車場に面しているお宅で、後にも先にもあんな見事に咲いている朝顔を見たことがありません。知人の真剣に悩む顔を見ながら、一瞬思ったんです、あの朝顔を摘み取るのはもったいなさすぎると。

 でも困っている人をそのままにはしておけないので、秘密の場所を教えてあげました。いくら勝手に咲いている?ように見える朝顔でも、むやみやたらと摘み取ったら、それは泥棒でしかありません。知人は花泥棒になるのは嫌だというので、見ず知らずのお宅に花を分けてもらいに行きました。突然の訪問にその家の人は驚いていましたが、子供の宿題にどうしてもいるのだと訳を話すと「どうぞ、好きなだけ」と言ってくれました。そう言われても、程度問題で、まさか丸坊主にする気など毛頭ありません。家の人に断ったものの、やはり後ろめたい気分になりながら、必要なだけの数の朝顔の花を摘み取りました。

 おかげで知人は子供の宿題をなんとか終わらせることができました。ちょうど田舎から宅急便が届いたばかりだったので、すぐに朝顔のお宅にカボチャや玉ねぎ、じゃがいもなどの野菜を持ってお礼に行きました。そしたらものすごく喜ばれて逆にびっくりしてしまったのです。それにしても、「朝顔で絵を描こう」などと言う宿題はできれば出して欲しくないなあとつくづく思ったのでした。

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