人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

ゴルフはなぜ人を魅了するのか

私にはゴルフ好きの心はさっぱり分からないが

 日経新聞の夕刊のコラム『明日への話題』でクレディセゾン会長の林野宏さんがゴルフの魅力について書いていた。「ゴルフはなぜ一流企業の社長までをも夢中にさせるのか?」と冒頭から始まり、「朝8時スタートのコンペに沢山の経営者が笑顔で集まる。そんな時間に役員会を開くと言ったら、トンデモナイというはずだ」と人を惹きつけずにはおかないゴルフの不思議さに言及していた。

 そう言えば、うちの兄二人もそんなゴルフの魅力に取りつかれた人たちだった。「だった」と過去形で言うのは二人共今はもうゴルフをしていないからで、長男は4年前に肺がんで亡くなり、次男は年金生活者となった今はもうゴルフはしていない。正確に言うと、30を過ぎて結婚して以来、ゴルフを封印したのだ。つまり、結婚生活の安定のためにフォルクスワーゲンの高級車とゴルフ道具を手放した。思えば、家に居た頃は花の独身生活を満喫していた。お金持ちでも何でもないのに、親戚が車関係の仕事をしていたおかげで外車が身近だった。カブトムシに似た形をしたビートルを手に入れ、何を思ったかゴルフ道具を買い込み、家でもパターの練習を熱心にするようになった。

 次男の部屋にあるミニ練習場で、私も一度ゴルフボールを穴に入れようとやってみたことがある。だが、まっすぐに動くはずのボールは思いもよらない方向に行ってしまう。何度やっても、自分の命令通りにはさっぱり動いてくれなくて往生した。その時、子どもながら私は思った、こんなにも思い通りにいかないのに、いったいゴルフの何が面白いのかと。長男も次男の様子を横目で見ながら、「ゴルフの何が面白いんだ。理解できない」と呆れていた。それなのに、それなのに、その長男も何年か経ってから、ゴルフが好きになってしまったのだから、人というものはわからない。義姉のミチコさんによると、ゴルフに行く日は兄が車で皆を迎えに行く役目を果たしていたらしい。

 次男に関して今でも忘れられないのは、クラブで素振りをしていてケガをしてしまったことだ。あの晩、いつものように会社から帰ってきて、家の猫の額ほどの庭で素振りの練習をしていた。ところが、ふと見ると次男の後頭部から血がしたたり落ちていた。信じられないことだが、自分の頭をクラブで叩いて?しまったらしい。ビールで一杯やってから素振りをしたせいで、手元が狂ったのだろうか。それからが大変だった。本人よりも周りの人間が慌てふためいた。長男は朝が早い仕事なのでもう寝ようと思っていたが、飛び起きて、次男を車に乗せて夜道をひた走った。田舎の村にある外科の医院は当然もう締まっていたが、ドラマによく出てくるシーンさながらにたたき起こして、診てもらうことができた。次男はしばらく頭にガーゼの白い帽子を被ったままで過ごすことになり、バツが悪そうな顔をしていたのを今でも覚えている。

 もう一つゴルフに関しては仰天したことがある。それはコロナ禍以前にカフェに通っていた頃の話で、偶然立ち聞きしたというか、盗み聞きというか、でも何も耳をそばだてなくても聞こえてしまうのだから、その空間に居る人は皆情報を共有していた。3人の高齢の女性がテーブルに座って雑談をしていた。見たところ、下世話な言い方をすれば、文字通りの”お婆さん”と呼ばれる人たちで、服装も高級そうでなく、たいして目立たたない普通の人たちだった。だが、彼らの話の内容が、ゴルフの女子選手のことで、3人のうちのひとりがほとんどおしゃべりの中心で、あとのふたりは聞き役だった。話の中に私のような門外漢でも名前を知っているような有名選手の話題が次々にでてきた。その時の私は、こんな高齢の女性たちがゴルフのことを熱心に話すなんて珍しいとしか思えなかった。

 だが、その「珍しい」はすぐに「まさか、信じられない」に変わった。なぜなら彼らはゴルフ場の予約とか、どのコースにするとか、いつもの場所で○○日にね、などと相談をし始めたからだ。おまけに「あんたは名義上は会社の専務になっていて、毎月お金が振り込まれるのよねえ」などというリアルな経済的側面にまで及んだ。どうやら皆それぞれ黙っていてもお金が入ってくるという幸運な立場の人たちのようだった。

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