人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

餃子100個完食に挑戦

イケルかもと言っていたのに、結果は惨敗

 またまた今日も、神楽坂関連の話で、なにしろ、小沼純一さんのエッセイを読んでから、あれ以来、懐かしい思い出がとめどなく溢れてくるのだからどうしようもない。思えば、今でも笑ってしまうエピソードがあった。それは小沼さんも言及していた、ジャンボ餃子と一升チャーハンがウィンドウにある某中華飯店でのことだった。いつもその店の前を通る度に気になっていたのは、「餃子100個完食、あるいは一升チャーハン完食した方には、高級紹興酒を差し上げます」と書かれた張り紙だった。

 もちろん、私は餃子100個完食などという恐ろしい挑戦をしようだなんてことは露ほども思わなかった。いくら、餃子100個の代金がタダになるからと言っても、想像しただけで気持ちが悪くなる。面白いからやってみようだなんて、誰が考えるのだろうかとさえ思っていた。だが、男友達のひとりは、あの日は冗談とも、本気ともつかぬ口ぶりで、「今日は一つやってみるかなあ」などと言ったのだ。信じられなかった。そりゃあ、彼は高校時代は表には出ない、陰の番長として皆から恐れられ、喧嘩が強かったといつも自慢していた。身長が170cmしかない割には、態度がデカいので、つまり所作があまりにも堂々としているせいで、彼は実際の身長よりもはるかに大きく見えた。それに、目鼻立ちがはっきりしている、ソース顔のせいもあって、誰が見ても彼は自信満々のように見えた。

 食欲に関してはどうかと言うと、まあ20代前半の若者としては普通で、特に大食いだという印象はなかった。そんな彼が、いったい何を思ったのか、たぶんほんの気まぐれで、やって見ようという気になったのだろう。私はと言えば、彼が完食する姿をとても想像することができなかったので、必死に止めようとした。もし、完食できなかったとしたら、餃子100個の代金約7千円を請求されて、しかも後悔の念のおまけつきで帰途に就くことになるのだと説得した。”後悔は先に立たず”とはよく言ったもので、もう少し冷静に考えた方がいいと説得を試みた。だが、彼の決心は揺らがない。

 大丈夫、たとえ、間食できなかったとしても、今日はお金の持ち合わせがあるから心配いらないと言うのだった。それに、餃子100個というのは、どんなものなのか、どんな光景がみられるのか、むしろそちらの方に興味津々なのだ。自分が餃子100個を食べられるかどうかなんて、本当のところは二の次なのだ。店内の壁にメニューがズラリと貼ってある隣に一升チャーハンや餃子100個を完食した猛者の名前が書かれていた。どちらが多いかと言うと、餃子100個完食の人数で、やはりチャーハンは至難の業で、一人か二人いればいい方らしい。どちらが挑戦しやすいかと聞かれれば、まあ、餃子100個が妥当なのは明かだ。そんなステレオタイプの思考から、彼も餃子100個に挑もうとした。それに、彼は最初はやる気満々で、私は一瞬「これはもしかしたらイケルかも」とさえ思ってしまった。

 ドキドキしながら、彼の挑戦を見守っていると、餃子が10個ほど盛られた皿が運ばれてきた。でも、なんだか、それは普通の餃子ではないように見えた。よく見ると、餃子一個が普通の餃子の何倍もある。あれ、そんなのおかしくない、どう見てもいつもの餃子ではない。これって、なんだかフェアではないでしょう、という叫びをグッと抑えた。でも、考えてみれば、あの皮がツルツルでモチモチの美味しい餃子なら、100個ぐらいなんてことない、などという輩は沢山いる。それでも、餃子100個は”餃子100個”には違いないので、「話が違うでしょう。狡くはありませんか」などとは言える状況ではないのだ。

 見た目の違和感に戸惑いながら、彼は一個目を食べ始めた。普通の餃子と違って、餡がこれでもかというぐらいぎっちり詰め込まれているので、食べにくそうにしている。それでも無理矢理何とか口に入れようとするが、3個目を食べ終えたところで彼に異変が起きた。それはお店の人が次々とてんこ盛りに盛った皿を運んできて、テーブルに並べてたからだった。「どうですか。これが餃子100個なのですよ」」と言わんばかりの圧力に、彼は意外と早く、戦意を喪失した。「うえ~、こんなに食べられない」とその外見とは裏腹に弱音を吐いた。彼の繊細過ぎる一面を垣間見て、目から鱗だった。あえなく、彼の無謀ともいえる挑戦は終わったが、こちらは果たして餃子の味はどんなものなのだろうかと、試しに味見をしてみた。

 すると、触感も味もすべてにおいて普通の餃子とは一線を画していたので、椅子からひっくり返りそうになるくらいの衝撃を受けた。だが、人目があるので、それを素直に表現するのは憚られた。こんなことは言いたくないのだが、それはどう見てもひどかった。やたらと肉が多い餡で、しかも量が多くてはち切れんばかり、一個が何個にも感じられる代物だった。美味しくもない餃子を100個も食べることはできないし、また途中でやめるという決断は正解だった。

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