人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

着物一式を買いそろえる

今週のお題「買いそろえたもの」

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目的は確かにあったが、衝動買いと言ってもいい

 若い頃、着物一式をよく考えもせずに、買ってしまったことがある。もちろん、買った着物をどうするのか、何に使うのかははっきりしていた。その頃、和楽器の琴を習っていて、ちょうど発表会に向けて練習している最中だった。なぜ琴なのかと言うと、当時住んでいたアパートに引っ越してきて、近所を散策していたら、偶然に「生田流琴教室」の看板を見つけたからだ。お宅のチャイムを押したら、ドアの奥から現れたのは花のようなたたずまいのおしとやかな美人の先生だった。世の中にこんな美しい人がいるのだろうか、と呆然と先生の話を聞いていたら、自然と習うことになってしまった。「しまった」と書くと、なんだか先生に騙されたかのように思われるかもしれないが、全く違う。

 実際、琴を習うにはお金がいるのは最初だけで、月謝は週4回で1万円もいらなかった。それに発表会に出るときは洋服でも何でもよくて、着物でなくてはならない決まりなどなかった。それなのに、なぜ着物を買うことになったのか、それはあくまで私個人の問題だった。もう遠いかなたの出来事なので、着物一式が一体いくらだったのかは忘れてしまった。ただ経済力などない、ただの会社員にすぎない若い娘が一括で払える金額ではないことは確かだった。それでも当時は友だちなどの話では、何十万円もする英会話のセットを勧められて、ローンなら大丈夫、払えますと言われて契約してしまったと聞いたことがあった。結局買っては見たものの、全く使わないで部屋のインテリアになっていた。だから、そういった、よく考えもしないでローンで物を買ってしまう失敗はよくあることだった。

 私の場合も身の丈には合わない買い物かも知れないが、ローンなら何とかなるだろうとの浅薄な考えからだった。毎月きちんと支払って行くつもりだったが、支払いに困ることもあった。それで親に助けてもらおうと泣きついたら、身の程知らずと激怒されてしまった。すぐに解約しろと言われて、しぶしぶ店に行って店員に説明した。ローンの総額はもう覚えていないが、ローンを解約しても、まだ50万円くらいの残額があった。なぜなら店で買い取ってもらえるのは、帯や草履、バッグなどの小物一式だけだったからだ。普通着物は着る人の寸法に合わせて作るので、その時点でもう売り物にはならないから買い取れないと言われてしまった。仕方がないので諦めるしかない。親としては一分一秒でも早く、娘の借金を無くしたい一心だったのだろう、すぐに残金を支払ってくれた。

 私の手元には美しい着物だけが残ったが、残念なことにその後一度も袖に手を通すことはなかった。それだけではどうしようもないせいなのか、ローンの解約で冷や水を浴びて、熱が冷めてしまったのか。ショーウィンドウに飾ってある美しい着物を眺めるだけで満足すればいいものを、自分の物にしたいと身の程知らずな考えを起こしてしまった結果だった。実は私に着物を買う気にさせた理由はもう一つあった。当時よく行っていた本屋がある商業ビルの1階に誰でも知っている着物の某有名店があった。ショーウインドウには小花模様の美しい着物が何点か飾ってあった。華やかさに目を奪われた私は自然とそちらの方に視線が向いて、しばらくぼうっと眺めていた。すると、そこへ店員が何人かやってきた。「綺麗でしょう、買わなくてもいいから、見るだけ見ていきませんか」と声をかけられて、ついその気になった。

 店内に入って他の着物も一通り見せてもらいながら、店員たちとたわいもない世間話をした。一瞬、なんだか不思議な気持ちになった。彼らはいっこうに「着物を買いませんか」とは尋ねては来なかったので、これではまるで友達かなにかのようだった。彼ら3人のうち一人は若い男性だったので、私は何か彼を男友達のように錯覚していたようだ。それから私は彼らと親しくなり?何度も店に遊びに行った。すると、たしか「別に買わなくてもいいから」と言われたはずなのに、だんだんと「彼らから着物を買いたい」衝動にかられてしまった。ええ~!どうしてそうなるの?と今なら思えるのだが、その時はそんな冷静に考える余裕はなかった。

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