人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

羊飼いの暮らし

世界的ベストセラーの秘密がわかった気がして

 先日、一カ月ぶりに本が手元に戻って来た。以前借りた本を再度予約してまた借りたのだ。それは図書館の新刊本の『影の王』で、著者はアメリカ在住のエチオピア出身のマアザ・メンギステという女流作家だ。図書館のサイトで真っ先にこの本を見つけたときは、人気がなく、誰も借りていなかった。普通は2週間借りられるのだが、望めばまた2週間期間延長できるはずだった。この本は500ページにも及ぶ長編で、文字も小さく、読むのに時間がかかった。当然のことながら、読み終えるのは不可能だと高をくくり、期間延長するつもりだった。だが、返却日が迫ったある日、図書館のサイトを開いたら、赤字で「この本は次の方が予約しています」と注意書きがあるのを見つけてしまった。なんてことだ、先を越されてしまった。仕方がない、とりあえず返却し、また借りればいいと諦めた。

 それで、もうちょっと読みたい気持ちを押し殺し、後ろ髪を引かれたが、とにかく決まりは決まりなので、図書館に返しに行った。ただその時に返すだけでは寂しいので、ちゃんと保険をかけて、別の本を受け取れるようにしておいた。自分の楽しみを台無しにしないために、その点は抜かりなく立ち回ったつもりだった。予約がなく、誰も興味を示さないが、自分にとっては面白そうに見える本を、サイトで予約完了にしておいた。それも新刊本で、その本を選ぶ後押しをしてくれたのは、「あそこは使えない本屋だ」と陰口を叩かれている近所の本屋の”新刊書の棚”だった。そこで私の興味を引いたのは『羊飼いの暮らしとこれから』という本で、一瞬ふ~んとなったが、本に付いている帯に書かれていた『世界的ベストセラー、「羊飼いの暮らし」の続編』とあるのを見逃さなかった。

 羊飼いと聞くと、私もそうだが、誰もが、それって今の世の中では絶滅危惧種に相当する職業ではないかと錯覚してしまいそうだ。それにそんな心許ない職業で、果たして生計を立てることができるのかどうかも怪しいものだと思っていた。正直言って、こんな考え方は、誇りを持って羊飼いという職業を生業にしている方たちにはとても失礼だ。だが、そのなんだか、よくわからない羊飼いというフィールドは、想像もつかないとても魅力的な世界なのではないかとも思えてきた。なぜなら、その本が世界規模でベストセラーになったのが、論より証拠で、しかも羊飼いが活躍する舞台があの人気観光地のコッツウォルズだと聞けば、自然と好奇心を掻き立てられるだろう。

 と言っても、私自身はその人気観光地には全く興味がなく、行って見たいとも思わなかった。コッツウォルズには熱烈なファンがいるらしく、その土地を特集した雑誌さえも毎月発売されていることを新聞で薄々は知っていた。それでも、人気観光地と羊飼いの組み合わせが今一つしっくりこなかった。新刊の『羊飼いの暮らしとこれから』を図書館のサイトで検索するとヒットし、なんと誰も借りていなかった。実を言うと、この本のことは全く知らなかった。新聞の広告にも載っていなかったし、いや、新刊書の全部が全部新聞に載るわけもないのだが、幸運なことに近所の書店で奇跡的に遭遇したと言っても過言ではない。

 だが、まずは新刊の続編ではなく、何年か前、正確には2017年に出版された『羊飼いの暮らし』から読むのが筋だろう。それで、再度サイトで検索してみると、ちゃんとあって、これまた誰も借りていない。すぐに予約すると、翌日には「取り置きしました」とのメールが届いた。返却を急かされて中途半端になった『影の王』と交換でもするように、世界的ベストセラーの『羊飼いの暮らし』を借りて今読んでいる。今の時点での感想は、羊飼いの世界にいつの間にか引きずり込まれ、独特な雰囲気にどっぷりと浸かっていると、妙に落ち着く。不思議なことに穏やかな気持ちになれるし、先日などは、かなり疲れていたが、このまま寝たくないのが本音だった。何の気なしにこの本を手に取って読み始めると、ジワジワと胸に温かいものが込み上げてきて、疲れが剥がれ落ちていくのを感じた。その時謎が解けた。世界中の人に支持される秘密を垣間見た気分になった。

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