人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

人生相談の回答に目から鱗

ありのままの自分を否定しない

 中日新聞に載っていた人生相談の回答を読んで、思わず目を見張った。なぜなら、一般的な回答とは全く一線を画した相談者に配慮した内容だったからだ。相談者の女性は80代半ばの夫の介護生活に日々明け暮れていて、毎日がつまらないという。夫婦仲が悪いわけではないが、大好きな旅行にも行けないので、一人だったらいいのにと考えてしまう。何よりも嫌なのは、夫を施設に入れて、早く自由になりたいと思ってしまう自分自身だ。何処にでもある介護生活の風景だが、果たして、この相談者にどう向き合ったらいいのか、せっかくお便りを寄せてくれた困っている人の助けになるだろうか、と私なりに考えてみた。だが、縁あって夫婦になったのだから、何かで気をそらし、少しでも楽しみを見つけてやり過ごすしかない、などという月並みな提案しか浮かばなかった。皆から世間知らずと言われる私にだって、常識をそんなに簡単に飛び越えるような突飛なアドバイスはできるわけもない。それに相談者は夫婦仲がいいのだから、そんな我儘は言わずに妻であることを全うすべきだなどという世間に配慮したことしか言えないのである。

 どう考えても答えになっていない。相談者の悩みにちっとも寄り添えていない。これでは世間で受けがいい常識でがんじがらめにして、まるで「つまらない」と思うことが悪い事でもあるかのように、間違っているかのように思わせて、どんどん追い詰めてしまっている。あなたが我慢すればいいことなどと、何処かで聞いたようなセリフが浮かぶが、それでは相談者は何のために生きているのかわからなくなるではないか。相談者自身の人生はどうなるのだろうか、夫がいなくなればいいのになどと、毎日思う生活はまさに地獄だ。

 たいして人生経験もなく収容能力のない私の頭で考えられるのはここまでだが、回答者の松井久子さんの鋭い指摘には目から鱗だった。「あなたは、これまでずうっと自分自身の声を聞くまえに、まずは夫がどう考えるかを優先してきたのではないですか」と相談者の立ち位置をズバリ言い当てた。つまり、世間で言われる、良き妻、良き母を演じてきた女性が、介護の時を迎えて、「私の人生、いったい何だったの?」などと考えてしまう。そしてさらに悪い事に自由になりたいということまで否定してしまうのだと推測している。今までそうだと信じていた確固たるものが突然ガラガラと崩れ落ちるような感覚なのだろう。

 松井さんは私ならすぐに行動に移すのだが、と前置きしたうえで、「介護生活がつまらないと思うのは無理をしているから」と指摘する。一番大事な事は、ありのままの自分を否定しないことで、まずは「ありのままの私とは?と自分に問いかけてみて欲しいという。「たまには夫の世話を子供に任せて、気晴らしに旅行に行くとか、自由になりたい自分を否定しないことです」と相談者の思いを間違っていないのだと認め、相談者の心に寄り添った提案をしていた。さらに、「80代は仕上げの時なのに、我慢しながら毎日を送るのではあまりにもったいない。ありのままでいいと当たり前に思うことができたら、今のモヤモヤから抜け出して、あなたにとって本当に大切なものにたどり着けるのではないでしょうか」という貴重なアドバイスで回答を締めくくっていた。

 相談者がこの回答を読んで、何らかの行動に移すかどうかは別にして、「ありのままでいい、湧き上がった感情を否定しなくていい」と認めてもらえたことで、希望と勇気を貰えたことは間違いない。「人としてあるべき行動を」などという常識に囚われなくていいのだという心強いアドバイスを貰ったことは大いに助けになるだろう。そう言えば、以前見ていたドラマ『作りたい女と食べたい女』でも、相談者と同じ状況の女性が出て来た。彼女は働きながら夫の親の介護を続けていたが、もう限界だと職場仲間に漏らしていた。そんな彼女に仕事で知り合った春日さんは「自分らしくいてくださいね」と励ましの言葉をかける。その後、彼女は「私、離婚することにしたの」と驚くべき決断をするのだが、現実にはたやすい事ではない。正直そう思ったが、今ならそれくらいしないと、「自分らしく」は貫けないのだとつくづく思う。

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