人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

憧れのままでいいバイオリン

 

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バイオリンを習うのに意外にハードルは低いのですが

 もう何年も前、ゴールディンウィークに近所の大学の前を通りかかると、聞こえて来たのはバイオリンの音色でした。誰もがこの時期どこかに出かけているとばかり思ったら、熱心に練習をしている人達も居たのです。塀の向こう側に居る人が世間とは別世界に生きているかのように思ったものです。やはりバイオリンの奏でる響きは特別で人を惹きつけてしまうのです。かくいう私もバイオリンの音色が大好きで、以前五嶋みどりさんが話題になったときには、朝はいつも彼女のCDをかけていました。ドラマを見ていても、バイオリンを弾く男性が出て来ると、思わずみとれてしまいます。例えば、昔好きだった米国ドラマ『大草原の小さな家』の父さんやトルコのドラマ『オスマン帝国外伝』のイブラヒムなどです。いつだって弾けたらどんなにいいだろうかと一瞬は考えてみるのですが、実際にバイオリンを習うところまでは行かないのです。それはたぶん、バイオリンをどうするか、つまりお金のことを考えるからだと思います。それと傍から見ていても難しそうで果たして自分にできるのかと躊躇してしまうからです。一歩踏み出すのには越えなければならないハードルが高すぎるのです。

 そんなことを考えていたら、知人が娘さんのことを話してくれました。彼女はどちらかと言うと飽きっぽい性格で、習いたいと言い出した時は長くは続かないだろうと思ったそうです。ちょうど専門学校に通っていた時で、時間だけはあるので本人のやりたいようにやらせることにしました。ヤマハの大人の音楽教室に申し込みに行くと、バイオリンは最低で20万円程度することがわかりました。予想通りバイオリンの値段は高かったのですが、無理にヤマハのを買わなくても構わないと言われました。練習ができれば何でもOKだとわかってホッとしました。親としては、そんな高価なものを買って飽きたらどうするのか。練習に使うのならもっと安いものでいいのだからと思い、試しにネットで検索してみたら、あったのです。ケースに入った練習用のバイオリンがなんとセットで1万円でした。こんなに安くて使い物になるのか半信半疑でしたが、幸運にもこれが十分役に立ったのです。娘さんの先生は清楚な感じがするウイーン帰りの若い女性でした。彼女はこの美しい先生に憧れていたようで、練習よりもおしゃべりするのが楽しかったようです。

 先生のバイオリンはもちろん何百万円もするので、生徒がわずか1万円でバイオリンを手に入れたことに驚きを隠せませんでした。「そんなに安いバイオリンがあるなんて知らなかったわ!」。娘さんがバイオリンを初めてわかったのは、弓は馬の背中の毛でできていて、弦を弓で擦って音を出すのだということでした。それと弦を取り替えたり、あるいは弓の馬の毛を新しくするのには5千円ほどかかることがわかりました。習い事には発表会が付き物ですが、娘さんの出番の時にちょっとしたハプニングが起こりました。それは彼女が「きらきら星」を弾いていたら、突然バイオリンの絃が切れてしまったのです。すると先生がすぐに自分のバイオリンを彼女に手渡しました。「どうだったの?やっぱり先生のバイオリンの方が音は良かったのでしょう?」と興味津々で聞いてみました。でも意外なことに知人の答えは「聞きなれているせいか娘のバイオリンの音の方が心地よかったの」でした。つまり、素人にはその音が何百万円もするのかあるいは1万円なのかは、全く判別できないのだとわかったのです。笑い話のようですが初心者にとってはその程度で、違いが判るのにはある程度の時間が必要なのです。

 知人の予想通り娘さんのバイオリン熱は先生が教室をやめて、またウイーンに戻ってしまったことにより覚めてしまいました。それと就職したことで、時間に余裕がなくなってしまったのも一因でした。知人は、高いバイオリンを買わなくて良かったとつくづく思いました。と同時に自分がやりたいと思ったら、本当にそれを望むのなら壁はたやすく壊すことができるのだとも強調していました。知人に言わせると、日々のレッスンを休みがちなのに、発表会にはちゃんと弾けてしまう人もいるそうで、皆それぞれ楽しんでやっているらしいのです。一方、私の場合は、バイオリンは思うだけで一歩も踏み出せず、依然として憧れのままの存在です。

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