人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

恋愛がきっかけで娘が大人に

今週のお題「大人になったなと感じるとき」  

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 娘が大人になったと思う時

 知人に言わせると、あれが自分の知っている娘との別れだったのかもしれないそうです。あれとは娘が起こした恋愛ざたで、見たこともない娘の別の顔を見ることになったのだとか。つまり、その事件をきっかけに、間違いなく娘は「大人になった」のです。知人が言う大人とは、誰にも止められない固い意志を持った、自分が見たこともない娘の姿に他ならないのだそうです。自分の子供とは思えない、もう一つの女の顔を娘の中に見たのです。その時は慌てふためき、絶望し、恥ずかしいほどにジタバタしました。恋愛に夢中になった娘は無断外泊をするようになり、家に帰ってこなくなりました。母の顔など見たくない訳ではなく、別の人生を生きたくなっただけなのです。もう母親に甘えなくても生きていけるのです。あの子も立派になったものだと知人は感慨深げに言います。

 昔から二人は仲良し親子で絆が深かったはず、娘も母親を頼りにし、どこにでも一緒に行きました。娘は母親が自分を守ってくれて、何でもしてくれることを当たり前のように思っていました。だから母の言うことに耳を傾け、めったに反抗しませんでした。

サンダルの紐が切れて、ひとりで困惑

 ある夏の日、娘は珍しくひとりで外出しました。その時娘にとってはショックな出来事が起こったそうです。街を歩いていたら、あろうことか履いていたサンダルの紐が切れたのです。娘はよろけて転び、膝小僧を擦りむきました。見ると少し血が出ていますが、それよりも問題なのはサンダルがダメになったことです。片足だけのサンダルで、どうやって家まで帰ろうか、どうしたらいいのかわかりませんでした。こんな時側に母がいたら、何とかしてくれるのに。すぐにでも何か別の履物を買ってきてくれるにちがいありません。でも現実には母はいないのです。じっとしていても埒が明かないので、足を引きずりながら歩きだしました。道行く人が娘のことをジロジロと見て通り過ぎるのですが、誰も声をかけてはくれません。誰も自分に同情してくれないので、どうして皆こんなに冷たいのだろうか、と娘は思いました。自分がやたら惨めに感じられ、なぜこんな目に合わなければならないのかと理不尽さを嘆いたのです。

 考えてみれば、世の中なんてそんなものなのですが、捨てたものでもないことは確かなのです。たまたまその場に親切に声をかけてくれる人がいなかっただけなのです。世間は善意で満ち溢れているのですが、娘があまりにも他者への依頼心が大きすぎたために錯覚したに過ぎないのです。あまり人に頼らずに生きる、でも本当に困ったときには他人に甘えていいのだと思うのです。

母子の問題は時間が解決して

 さて、現在の知人と娘は、適度な距離を保った良好な関係にあるそうです。恋愛事件の後、さすがに母は寂しさから娘を拒否して、娘の顔を見たくないとも思いました。それなのに娘は母に会いたがって電話をかけてくるのです。娘のそんな行動が母には全く理解できず、悩まされました。でもそのうち母はもはや以前の関係に戻ることは無理なのだと悟りました。つまり時間という最良の解決策がだんだんと諦めることを教えてくれたのです。知人は自分の人生と娘の人生とは別物なのだから、それぞれ好きに生きればいいのだと思うことができました。それでやっと、母としての自分から解放されて気持ちが楽になったのです。

 あれから娘は結婚し二人の娘の母となりました。今では混みあった電車にも堂々とベビーカーで乗り込む強い母になりました。もうサンダルの紐が切れたくらいで泣いていた娘はどこにもいないのです。「人目を気にしないにもほどがある」と知人が驚くほどの立派な大人になったわけなのです。

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