人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

人形作りの材料を揃える

今週のお題「買いそろえたもの」

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人形の材料を集めるのは思ったよりお金がかかって

 若い頃、なぜだかわからないが、人形作りに夢中になっていた時期があった。今思うととても理解できないが、人形作りを生きがいにして暮らしていた。もちろん仕事ではなく、単なる趣味の範囲なのだが、次々と人形を作り、それらを部屋に飾り、眺めて楽しんでいた。たぶん心のモヤモヤを晴らすにもよりどころがなくて、黙々と手を動かして、何かひとつのことに熱中することで、その時だけは忘れていられたのだと思う。何かしていなければとても正気ではいられなかったのかもしれない。その何かが人形作りで、近所の本屋に立ち寄ってたまたま手に取ってみたのが米山京子さんの本だっただけのこと。表紙の写真には、なんだかホンワカした顔の人形が微笑んでいるのが見えた。頑張ってとエール送ってくれているわけでもない、何も強いメッセージを発していないところが魅力だった。その人形の表情になんだか安心感を抱いた私はその本を迷うことなくレジに持って行った。

 それが人形作りのきっかけで、最初はパラパラと見て楽しんでいたが、すぐに自分でも作ってみたくなった。米山さんの人形は布に綿を入れて、顔、胴体、手足を作るやり方だ。使用する布は綿ジャージーで、とても伸縮性があるのでよく伸びる。中に詰め込むのはテトロン綿といって、布団に入っている綿よりも軽めの材質の物だ。早速大きめの手芸店に行ってみると、綿ジャージーというのは色は白で、人形に使ってあるような肌色の物はなかった。家に飛んで帰って、よく本を見てみると、人形の肌色は自分で染める?のだとわかった。それでスーパーで染め物専用に使うアルミの大きな鍋を買った。手芸店ではダイロンという染め物用の染料を買って、顔や手足、胴体に使う布を鍋に入れて染めてみた。

 何事も最初からうまく行くことなどない訳で、満足する色合いを出すのに時間を要した。染料の適度な量は回数を重ねなければ分からない。今思うと、人形作りのために染め物をするとは夢にも思わなかった。やってみると、自分好みの色合いが作り出せるので楽しかった。それに味を占めた私は人形に着せるドレスの布も染めて作るようになった。手芸店で買って来たお買い得のレースを自分好みの色合いに変身させるのに夢中になった。人形の顔に付ける頬紅はその頃は色鉛筆を使っていたが、バイト先で知り合った女の子がもういらないからと「これ、あげるから使って」と言いながら頬紅のケースを差し出した。その気持ちが嬉しくて、私はその子に人形をプレゼントしてあげた。

 ウキウキする気もちとは裏腹に現実問題としては、人形の材料ははっきり言ってお金がかかった。あの頃は熱に浮かされていたから、そんなに負担には感じなかったが、人形が大きくなればなるほど、布も中に詰める綿も量が必要になった。そして、それは決して安いものではないとわかった出来事があった。それはある日のこと、バイト先の女主人が「私にも人形を作ってくれない」と私に頼んできた。「うちにはいらない布がたくさんあるから、これを使って」と布が入った紙袋を手渡された。だが、それだけで人形は作れないが、日頃から人に圧を与える人なので何も言えなかった。

 かおや手足、胴体を作るために使う綿ジャージーテトロン綿、それに着せる下着を作るための綿ブロードの布、髪の毛にはモヘヤの毛糸がいるし、靴にはフェルトの布が必要だった。女主人に貰った布は最後に着せる洋服にしか使えなかった。それだけではダメで綺麗なレースで飾らなければならないし、お揃いの帽子だって作りたかった。女主人は昔洋装店を経営していたので、当時の布がゴロゴロと余っていた。それをなんとか有効活用したかっただけなのだ。私にそれらのいくつかを渡したら、もう自分の役目は終わったと思っていた。

 当時の私はお金がどうのこうのと言いだせず、「人が思うよりもお金がかかるんだけどなぁ」とひとりで嘆いていただけだった。人形作りは自分だけで楽しむのなら、問題はないが、あんな風に人に頼まれるとなんだか興覚めになってしまう。誰にも知られずこっそりと楽しめばいいのに、ついつい人に話したくなってしまうのだから厄介なものだ。

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