人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

奇跡の街、オアマル

まるで中世に迷い込んだような街、そして人々の営み

 NHKの『世界街歩き』という番組を見た。以前に何度か見たことはあるが、見ているだけで旅気分が味わえて楽しくなる番組のはずだった。だが、今回見たニュージーランドのオアマルという街については目から鱗だった。もちろん、オアマルという地名は聞いたこともないし、その場所について言及されている記事を読んだこともなかった。オアマルはニュージーランドの南島にあって、クライストチャーチから車で3時間の距離にある街なのだ。テレビカメラがまるで散歩をしているかのように街を映し出すと、次々に白亜の建物が目に飛び込んで来た。う~ん、こんな光景を前にするとなんだか中世の街に迷い込んでしまったかのように錯覚してしまう。すると、ナレーションでこれらの建物はすべて1800年代に作られたビクトリア様式との説明があり、当時の建物が現在まで手付かずのまま残っているだそうだ。

 この街の人々は何よりもビクトリア様式を愛しているらしく、その姿勢は建物だけでなく、彼らの服装においてもそうだった。街を散策していたら、カフェのテラスで二人初老の男性が食事をとっていた。彼らの服装がこれから何か特別な会かなんかに出かけるようなスタイルだったので、リポーターは思わず声をかけてしまった、「素敵な服装ですね」。二人共ベストを着て、ツィードのジャケットを羽織り、なかなかおしゃれで、まさにファッション誌に載ってもおかしくない格好だった。今の日本で街中で彼等のような人たちを見つけることはまずないだろう。きっと何か特別な日なのだろうと思ったら、「何もないよ、いつもこの格好さ」と即答されたので面食らってしまった。 「このビクトリア様式の服装が何より好きなんだ」と自分たちのスタイルを貫いているのがとても印象的だった。

 さらに別の地域に足を伸ばすと、一人の男性が箒で通りを掃いているのに出くわした。「なんだか埃っぽいのが気になって」というその人は「俺の工房を見て行かないか?」と誘ってくれた。工房があるのは200年以上は経っているだろう思われる建物だ。かれはそこで、古い本を修復したり、手製のノートを作っていて、手仕事の様子を「ほら、こうやってやるんだよ」と親切に見せてくれる。彼は紙の束を糸で縫い合わせていた。それを見ていた私は、「この大量生産の時代に、まさかの手仕事!」と椅子からひっくり返りそうになるくらいの衝撃を受けた。「大量生産は好きじゃないし、手仕事には職人の魂がこもっている。それに俺は自分の仕事に誇りを持っているんだ」という言葉にとても考えさせられた。

 また、街角で何か作業をしている男性に声をかけると「今糸巻き機を直している最中だ」と言われ、「もし、良かったら見に来るかい」と誘われてお宅に伺う。中に入るとそこはなんと機織り工房でウールの布を織っているという。昔は配管工だった彼が機織りを始めたきっかけは鬱病で苦しんでいた時だった。何も希望などなかった頃に出会ったのが機織り機で、なんだか面白そうだったので、やってみることにした。驚くべきことに、機織りに関してはずぶの素人で、何の予備知識もなかった。それに当時購入した機織り機は壊れていて、ほとんど使い物にならなかった。普通ならそこで終わるところだが、彼は違った。自分で修理して直し、現在も使い続けているというから凄い。それに機織りの仕事の良いところは、夫婦で協力して作業ができるところだと奥さんも笑顔で答えていた。

 オアマルは古い物を大事にし、自分たちの文化を守り続けている人たちが住んでいる稀有な街だなあと、感心していたら、最後に登場したのはペンギンだった。ペンギンと言っても、世界で一番小さくてかわいいと言われている、ブルーペンギンで、夕方になると、彼らは岩場を昇って、自分たちの巣穴(コロニー)に帰って来るのだという。街ではペンギン保護のための取り組みが行われ、職員が人口の巣穴を作って彼らを常に見守っている。海岸道路には「ペンギンに注意」のサインが設置されていて、ペンギンの行列はオアマルの風物詩のひとつとなっている。

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