人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

モスクワのモールで買ったTシャツ

今週のお題「二軍のTシャツ」

暇だからか、店員さんが話し掛けてきた

 昨日、日経新聞をパラパラ捲っていたら、海外旅行のツアーの広告が載っていたので仰天した。なんて久しぶりなのだろう、もうかれこれ2年ぶりだろうか。物珍しいものでも見るように食い入るようにまじまじと見てしまった。「美しきイタリア3都市周遊8日間」で、それもルフトハンザ航空のビジネスクラスだった。密を避けるという点では道理に合う設定だが、サーチャージ料が10万円なのには二度驚いた。このツアーは夏休みのためかと早合点したら、9月の連休からの出発らしい。おそらくその頃にはコロナも落ち着いているという予想なのだろう。

 この広告を見て「待ってました!」とばかりにすぐ申し込む人はどれくらいいるのだろうか。連日テレビのニュースは感染者が10万人を超えたという現実を伝え、今朝のニュースではこの連休3日間で患者が限界を超えたと病院の医師が訴えていた。かなりの数の患者さんをお断りする事態にまで達しており、この現実を真摯に受け止めて欲しいと強調していた。もはや、世の中ではコロナはインフルエンザ並みの認識なのだろうが、もしかかったとしてもすぐには見てもらえない恐れがある。病院難民としてひたすらさすらうことになることを覚悟した方がよさそうだ。たかが、インフルエンザと言っても、一度ならず体験した身としては辛い思い出ばかりだ。高熱が出て起き上がることもままならず、病院に行って吸入薬を貰っても、なかなか良くならない。熱はすぐ下がるが、身体はだるく、足が重くて思うように歩けない。そんな症状が2週間以上続いた。

 テレビで悲惨な状況を訴えているのに、ひとたび街に出ると、何のことはない、みな普通の顔をして歩いている。あれは一体どこの国の話なのか、いまひとつ危機を実感できないでいる。だから、お金もあって、喉から手が出るくらい海外旅行に行きたい人は申し込んでしまったとしても、その気持ちはようくわかる。では、私自身はと言うと、正直、思ったより心が躍らない。もちろんツアーには参加しないが、徐々に個人旅行も再開されるだろうから、朗報には違いない。だが、コロナの感染状況がどうなるかによっても大きく左右されるだろう。

 最近私は海外旅行そのものが思い出に変わりつつあるのを実感している。あの幸せを願わくばもう一度、よりも「あの時、行っておいてよかった」になりつつある。旅行の記念に買ったTシャツも着古して、二軍に行ったのはいいが、それから消息が定かではない。とくにロシアのモスクワのショッピングモールで買った3枚のTシャツ、それらには思い出がある。モスクワの街かどにある土産物店に売っているTシャツははっきり言って私の趣味には合わない。なぜかと言うと、派手な地名のロゴマークプーチンの顔写真が付いていたりして、日本で普段着るのには落ち着かない。他の人もただ面白そう眺めるだけで、それを買う人は滅多にいなかった。

 それで、私が向かったのは主要な駅の側にあるショッピングモールで、あまり人はいなかったがある一軒の洋品店に入った。そこはTシャツの種類が豊富で、好きなの選びたい放題の店だったので私は舞い上がった。嬉しくなってお土産用に何かないかと熱心に探していた。そこへ現れたのはフレンドリーな若い女性の店員さんだった。その人もきっとだれもお客さんが来ないので退屈していたのだろう。腕に数枚のTシャツを抱えている私を見ると、すぐに店にあるカゴを取ってきてくれた。結局私は男性用5枚と女性用5枚の計10枚のTシャツを買うことにした。レジに持って行くと、彼女と中の良さそうなもうひとりの店員さんが待っていた。

 会計の時に彼らが、Tシャツをさして「これも、これも、お買い上げなのですか」と念を押すのですごく不思議な気がした。お金持ちでも何でもないが2万円程度の買い物で、日本では普通の金額だと思う。それで私は値札を思わず確かめてみた。もしかしたらゼロひとつ違うのではないかと、えらい勘違いをしているのではないかと自分を真剣に疑ってしまった。だが、何度見ても間違いはなかった。彼女たちも私をからかっているのではないらしい。たぶん、これはあくまで私の想像なのだが、彼女たちの金銭感覚が私のそれとは異なっているか、あるいは給料が天文学的に低いかのどちらかだと考えられる。それでも彼らは私に「どこから来たのですか」とか「どんな仕事をしているのですか」とか「このTシャツは誰にあげるのですか」などと気軽に話しかけてくる。最初はロシア語だったが、彼らが英語が話せるのがわかると、私にとってはその方が楽だった。まさかブテックで現地の人と国際交流ができるなんて思わなかったので、今となっては懐かしい思い出だ。

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