人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

引っ越しは最高の気分転換

今週のお題「引っ越し」

f:id:mikonacolon:20220308061652j:plain

引っ越しをして失恋した私

 まだ若い頃、私は引っ越しが大好きだった。なぜかというと、新しい街には自分がまだ見たことも聞いたこともない何かがありそうだったから。新しいお店やそこで暮らす人たちに会えると思うとワクワクした。それにひとり暮らしの気楽さで荷物もたいしてなかったから、いつでも自由に移動できた。当時の私は大型の荷物を何も持っていなかった。洋服は部屋にある押し入れや作り付けのクローゼットの中に入れればよかった。冷蔵庫も近くにコンビニがあるのでたいして必要なかった。洗濯機は持たず、コインランドリーで済ませていた。現在のようにたいして使わないけれども、かと言って捨てることもできない大量の荷物を抱えこんではいなかった。年を取るにつれて、そんな本当は捨ててしまいたいのに、でも捨てる決断がどうしてもできないものが増えてくる。

 そういう意味で若い頃というのは絡みつくものが何もない身も心も自由な時代なのだとつくづく思う。でも若い頃というのは後先考えずに突っ走ってしまうものだ。その頃私はあるうどん店で夜アルバイトをしていた。今はまだあるかどうかわからないが、歌手の五木ひろしさんも時々来ていた。初めて生で見た五木さんはすらっとした好青年でカッコイイ人だった。五木さんとは直接話したことはなく、店の女主人と話をするのを聞いていただけだった。でも五木さんの付き人をしていた男の子とはよく話をした。彼は歌手を目指していて、いつかはデビューするという夢を持っていた。

 ある時、昼間アルバイトをしている男の子と顔を合わせる機会があった。話をしてみると、なんと私が住んでいるアパートの部屋の向かいの部屋に住んでいることがわかって仰天した。アパートの前にある狭い路地の向かいに建っているもう一つのアパートの2階に彼は住んでいた。その日の夜、窓を開けて早速、イズミ君~と彼の名前を呼んでみた。すると、ガラッと窓が開いて、イズミ君その人が顔を出して笑っていた。こんな偶然は滅多にないのではないか、これを人は運命と呼ぶのではないかと私は勝手に舞い上がってしまった。おそらくこの時、私の中でイズミ君は愛すべき人になってしまった。イズミ君を自分の彼氏にしたかったし、恋愛というものをしてみたかった。

 それなのに、一方で他の人に知られたくないという気持ちも少なからずあった。店の人の前ではイズミ君に冷たい態度をとってしまった。当然そんな私の態度にイズミ君は戸惑っていて、目で何かを訴えていた。今から考えると、あの恋愛がうまく行かなかったのは私のせいだった。それにしても、私はイズミ君を本当に好きだったのだろうか、それさえも分からない。イズミ君のことは夜間の大学に通っている男の子だという以外は何も知らなかった。窓を開けて呼べば、こっそりと私の部屋に来てくれた。それだけで十分だった。なんともお手軽なところで彼氏を見つけた感じだが、偶然が重なったら必然で、これはもう運命だと錯覚してもおかしくはない。

 しばらくすると、私はイズミ君の気持ちが知りたくなった。彼の気持ちを知らずにこのまま付き合うにはなんだか不安だった。だから私は引っ越しをすることにした。電車で30分ほどの距離ならいつでも会えると思った。私は失恋したから引っ越しをしたわけではなく、彼の気持ちを試すために引越しをした。なのにイズミ君は私を追いかけてきてはくれなかった。だから私は自分で彼に会いに行った。彼の口から出たのは意外な言葉だった。自分にはそんな余裕がない、大学の学費もすべて自分で何とかしなければならない、大学とバイトで精一杯なのだと言う。とても私のところに会いにはいけないらしい。とにかく、私が引っ越しをしたことで、私たちのささやかな交際は終わった。彼の気持ちは本当はどうだったのか。それは今更考えてももう遅い。それは言わぬが花としておこう。

mikonacolon