人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

虫報告って何?

岐阜県美術館勤務の監視員でもあるイラストレーター、宇佐江みつこさんの漫画。

美術館での「飲食禁止」には訳があった

 「いつも美術館で椅子に座ったままじっと動かない人、あの人たちって、パートのおばさん?、そうじゃないとしたらもしかして学芸員だったりして・・・」などという私の長年の疑問に答えてくれたのが、宇佐江みつこさんだった。朝日新聞の夕刊の『アートの伴奏者』というコラムで美術館に監視員という必要不可欠な仕事があることを知った。監視員ははたから見ると、絶対に眠くなって、退屈してしまいそうな仕事にも見えるが、実際は一瞬も気を抜けない仕事だと知って、目から鱗だった。宇佐江さんは監視員として勤務しながら、勤務先の岐阜県美術館のSNSで漫画を連載中のイラストレーターでもある。冒頭に乗せた写真を見るとわかるとおもうが、なかなか可愛らしい猫の絵が印象的で、監視員の仕事を分かりやすく説明してくれている。

 さて、今回は「虫報告」と言うことだが、だいたいが美術館に虫なんているのだろうかと不思議に思った。ところがこの「虫報告」は監視員にとっては必須の仕事らしい。何のためかと言うと、美術館にとっては宝物ともいえる沢山の美術品の数々を守るためにである。「虫報告」と言うのは、館内で見つけた虫すべてを捕獲し、決められた封筒に入れて、提出する業務の名称のことなのだ。となると、ハエだろうが、蚊だろうか、夏になると出没する、あの不気味に光を放つGだろうが、何でも捕まえて封筒に入れなければならない役目を担うことになる。虫が苦手な人にはまことに酷な任務だが、幸いにも宇佐江さんは全然平気で、何の苦もなく仕事をこなしている。そして、虫を入れた封筒をどこに提出するのかと言うと、なんとそれは「学芸員のデスク」で、それには今でも戸惑う?のだと言うから面白い。ちゃんと、デスクの横には箱が置いてあり、「虫報告はこちらへ」と書かれていると漫画で指摘されていた。

 まるでお手紙のようだが、実は中身は虫!?と言うのがミソだが、これらの虫をどうするのだろうか。いったいどう始末をつけるのだろうかが気になる。まさか、封筒を開けて中身をいちいち確認し、虫の名前と数量をチェツクして統計などを取っているのではないかと想像したくもなる。漫画でもコラムでも、虫入りの封筒がこの先どう処理されるのかは触れられていないので、自分勝手に面白おかしく想像を膨らませるしかない。

 虫の運命はさておき、宇佐江さんが言いたいのは、美術館が飲食禁止なのは虫害を減らすための地道な取り組みの手段だということだ。飲食と言うのはあめやガムなども含まれており、おそらく美味しい匂いに誘われて、外部から虫が入り込む恐れがあるからだろう。言われてみればもっともだが、正直言って、あめやガムぐらい!?は許されるのではないかと安易に思っていた。美術品と虫との関係にはとうてい考えが及ばなかった私にはまたもや目から鱗だった。これから先美術館に行く機会があれば、私の場合たぶんそれは海外の有名な美術館に限られると思うが、その時は今までとは違った視点で館内の美術品を鑑賞できるに違いない。

 コラムの最後で宇佐江さんは最近とても嬉しい瞬間に遭遇したと書いていた。それは『19世紀に描かれた作品を見ていた高校生が「色がきれい」と驚いていた』そうで、『これってホントに、そんなに古い絵なの?』との素朴なひとことに胸がじ~んとしてしまったらしい。時空を超えて、遥か昔に描かれた絵画が現代に生きる私たちと会話をしているようなものだ。その不思議さに考えが及ぶと、いつの間にか日常を忘れてしまっている自分がいることに気づく。日常の厄介な事、悩ましい人間関係がどうでもよくなる、少なくとも今このひとときだけは。そんな気分転換ができてしまうのが、美術館という摩訶不思議な空間の効用だと言えなくもない。

mikonacolon