人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

永井紗耶子さんのこと

スポーツ嫌いだと知り、俄かに親近感を

 日経の夕刊に連載されている『プロムナード』というエッセイのコーナーで、永井紗耶子さんが、自分はスポーツ嫌いだと書いていた。永井さんと言えば、先ごろ第169回直木賞を受賞した話題の人だが、子供の頃から体育が苦手だったと言う。正直言って、永井さんのことはそのお名前も、どんな作品の書き手かも、とんと聞いたことがなかった。だが、7月から週に一度担当されているこのプロムナードのエッセイを拝見しているうちに、この人はとても面白い人だなあと感じていた。なぜそう思ったかと言うと、以前、カラスの話をされていて、まさかのカラスと友だちになろうとしたというので仰天した。と同時になんだかとても笑えてきた、この人はなんて面白い人なのだろう、と。

 永井さんは犬の散歩に行く度にカラスに遭遇するので、これは何か縁があるのだろうかと勘違いし?カラスの鳴き声を真似して、カアカア~、と2,3度、呼びかけてみた。それと言うのも、カラスの研究者の人が書いている本に、カラスとコミュニケーションをとる方法が載っていたからだった。それで、自分でも試してみようと思って実行してみると、なんと、カラスがこちらの声に反応して、カアカアと鳴いたのだという。何だか信じがたい話だが、そもそもあの黒光りがする、見るからに気味が悪い鳥と知り合いになろうとする発想がユニーク過ぎる。永井さんはカラスを毛嫌いしていない。あわよくば、カラスと仲良くなっても構わないと本気で思っているらしい.そんな好奇心旺盛なところが、作家たるゆえんで、創作活動の原動力になっているのかもしれない。

 さて、カラスとお近づきになろうとしていたら、犬の散歩に一羽のカラスが付いてきたこともあった。まるでこちらを先導するように目の前を飛んでいくので、これは心が通じたのかと思ったら、なんと目の前に糞を落として逃げて行った。胸がときめいたのに、一瞬にして幻想は終わりを告げた。カラスと自分の間には深い溝があることを思い知らされたという、落ちが付いた。

 最近私はカラスと遭遇することは以前ほどはなくなった。以前はよくごみの収集日に近所を歩いていると、カラスが何かよさそうなものを見つけたのだろう、ゴミ袋から何かを引っ張り出してくちばしで一生懸命突いていた。それはそれでカラスの勝手でいいのだが、なにも道の真ん中で堂々としなくてもいいのではないかと正直思った。邪魔なのでやめてもらいたい。それでも、私はひるむことなく、どんどんカラスに向かって歩いて行った。すると、カラスは気配を察したのか、寸前のところで飛び去っていった。

 カラスは賢い鳥なので、人間からいじめを受けようものなら、必ず覚えていて仕返しをすると何かの本で読んだ覚えがある。なので、何も身に覚えがないのなら、たとえ、カラスに通せんぼされたとしても堂々と道を行けばいいとの考えから行動した。そう言えば、友人がある朝ゴミを出そうとゴミ置き場に行った帰りに、背後からカラスに後頭部を突かれたと嘆いていたことを思い出した。カラスは余程のことがなければ、そうやたらと人を襲わないものだと聞いていたので、きっと何かカラスが嫌がることをしたのではないだろうか。こちらもそう詳しくは聞かなかったので、真相は不明だが。

 前置きが長くなったが、カラスの話題がとても新鮮だったので、永井さんのことが気になり始めていた。そんなタイミングで、今度は自分と同じような運動オンチという体質だと知ったら、親近感が湧かないはずがない。ところが、永井さんは昔、ライターをしていた時に、思いもかけない仕事に遭遇した。それは「全く走れない人が走れるようになるまで」をプロの指導の下で体験取材をすることだった。何とそのプロというのが、あの金哲彦さんで、毎年恒例の箱根駅伝でレポーターとして活躍されている方なので、なおさら興味津々だった。もちろん最初のうちは悪戦苦闘したが、そのうち、「これは面白い」と感じ始め、一人でも走って見ようと思うようになったと言う。当時30歳だった永井さんは、あの仕事は自分の人生にとってすごく大きな意味があったと振り返っている。

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