人生は旅

人生も旅もトラブルの連続、だからこそ‘’今‘’を大切にしたい

もしかしてナンパ!?

中日新聞に連載されている柘植文さんの漫画『喫茶アネモネ

マスターは真実を知りたくなかった

 先日の『喫茶アネモネ』はマスターがナンパ!?されそうになった話だった。その日マスターは仕事で疲れた老体に鞭打って家路を急いでいた。そこへ車のドライバーのマダムから「よろしかったら、ちょっと乗っていかれませんか」と声がかかったのである。その時マスターはフラフラでノロノロで倒れそうなくらい危い足取りだった。なので、自分でもナンパなどではなくて、同情されたのだとわかっていた。でもマスターはそのことを認めたくなかったので、マダムの親切な声を無視して逃げてしまった。自分のナンパなどとは程遠い現実を直視するのを避けようと必死だった。

 それなのに、後日そのマダムがアネモネに来店し、バイトのよっちゃんや店の常連さんの前で「この間は大丈夫でしたか?」といわれてしまったのである。万事休す、マスターは穴があったら入りたかった。『聞きたくない!本当のことなど』と逃げたものの、すぐに『真実に追いつかれた』気の毒なマスターは狼狽えて絶句した。

 この漫画を読んで、久しぶりにナンパなどという今では絶滅危惧種に分類される言葉に出会った。ナンパと言えば、私たちの世代がまだ若い頃はいたって普通に行われていた。誘ってくる相手もたいした意図もなく軽い気持ちだったし、こちらも同様で断る理由もなかった。もちろん第一印象は大事なことは言うまでもないが、相手がなんだか良さそうな人なら、悪い人でもないらしいと判断すれば身の危険は感じなかった。まあ今から思えば、少々若気の至りだったかもしれない。こう書くとなんだか私がナンパに慣れているように誤解されるかも知れないが、あくまでも周りの友だちから聞いた話である。実際について行ったことはないが、ふと思い出すのはナンパされたのに、たいして話もしないうちに一瞬にして終わってしまった幻のナンパのことだ。

 その日私は友達と池袋のサンシャイン通りを歩いていた。休日の午後ということもあって街は大勢の人で賑わっていた。私たちが談笑しながら歩いていると、二人組の男の子たちが声をかけて来た。二人は私たちから見ればまあ普通の人たちで、「どこかでお茶しない?」と誘われたので、躊躇なく承諾した。だが、どこの店も混んでいて、私たち4人が一緒に座る席が見つからない。それでどうしたかと言うと、店を必死に捜して右往左往している彼ら二人を置いて、私たちはその場を離れた。信じられないことに何も話すことなく、ひたすら店を捜して歩いただけのありえない経験だった。

 以前友達から聞いた、何とも困惑するしかないナンパの話がある。その日彼女は地下鉄の東西線から都営浅草線に乗り換えるためにホームで電車を待っていた。乗り継ぎに時間がかるのに、その日の彼女はいつもよりも家を出るのが遅れてしまった。なので、学校に遅れないかと内心そわそわしながら、電車の到着を祈るようにして待っていた。そんなとき、突然後ろから「あのお茶でもどうですか?」という男性の声がした。ふと見ると人の良さそうな若い男性だった。それでも、そんな場合ではない彼女は少しイラっと来たが、丁寧に「時間がないので、すみません」と答えた。

 言ってみれば、たわいもない話だが、後になって「あの人はいったい何を考えて私にあんなことを言ったのだろう」という疑問が湧いてきた。朝の通勤や通学途中にナンパする人の気持ちが到底分からないのだ。その時彼女が着ていたのは専門学校の制服で、それも某有名デザイナーのデザインだった。それを着た彼女は友達から「なんだかスチュワーデスみたいだね」と揶揄されていた。つまりその制服がとても似合っていて、いい感じに見えたから男性はその気になったのだろうか。あるいは本当に一目惚れ!?だったのかもしれないが、縁がなかったとしか言いようがない。

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